本日の東京新聞朝刊に、新型コロナウイルスの感染拡大による米国の経済悪化で、「ラストベルト」地域の労働者が、トランプ大統領への信任を迷っているとの記事が掲載されていた。
「ラストベルト」とは、記事にある通り、五大湖沿岸のミシガン州(中心都市:デトロイト)、ウィスコンシン州(同:ミルウォーキー)、オハイオ州(同:クリーヴランド)、ペンシルベニア州(同:ピッツバーグ)の地域を指す。この4州は共和党のトランプ大統領の政治経済対策に対する期待が強い。「アメリカファースト」を掲げ、フォードやGM、クライスラーなどの旧来の自動車産業を保護し、ヒスパニック系移民の排斥を掲げるトランプ大統領の政策に肩入れする理由について、以下の教科書の解説を読んで欲しい。歴史的背景も含めて、きっちりと説明されている。決して手抜きではありません(笑)。
昨年度の授業では、ベルトコンベア式のフォードシステムに対するアンチとして、チャップリンの映画『モダンタイムス』の一場面を紹介しました。
以下、帝国書院「新詳地理B」教科書のP302より(カッコ内は私の追記)
大西洋沿岸のメガロポリス(「巨帯都市」とも訳されます)から五大湖沿岸にかけての地域は、20世紀前半まで、重工業を中心とした経済発展の舞台であった。メサビ(安定陸塊に位置する)などの鉄鉱石とアパラチア炭田(古期造山帯に位置する)など、豊富なエネルギー・鉄鉱資源が水運で結びつけられ、国内最大の工業地域が形成された。オハイオ州上流部のピッツバーグは「アメリカのバーミンガム」とよばれ、19世紀から20世紀前半にかけて、鉄鋼業の中心地として繁栄した。鉄鋼は工業発展の原動力であり、鉄道交通の発達や自動車産業の基盤となった。デトロイトは自動車産業の中心地として代表的な工業都市となり、世界有数の自動車メーカーが本拠をおいた。また、油田開発により自動車燃料のガソリンが確保されたこと、さらに、移民の労働力やすぐれた技術、巨大な資本に恵まれたことも工業発展の要因となった。
しかし、第二次大戦後、ヨーロッパ(授業では「青いバナナ」と習う)や日本で工業化が進むと、それまでこの国経済を支えてきた鉄鋼業や自動車産業は、厳しい国際競争にさらされた。技術革新や品質管理の遅れ、労働者の高い賃金、ドル高による国際競争力の低下などのあいまって、この伝統的な工業地域では、工場が閉鎖され、失業者が増大した。この地域はスノーベルト(注)とよばれ、産業構造の変化を象徴する存在となった。また、こうした産業構造の変化を受けて、多くの製造業の企業は賃金の安いメキシコなどへ工場を移転し、多国籍化した。その結果、国内では雇用が減少し、産業の空洞化が問題となった。
(注)北部の伝統的な工業地域は、サンベルトと対比して、こうよばれるようになった。ここでは工業が衰退してきたので、ラスト(さびついた)ベルトとよばれることもある。