石田ゆうすけ『地図を破って行ってやれ!:自転車で、食って笑って、涙する旅』(幻冬舎文庫 2016)を読む。
2013年に刊行された本の文庫化である。著者の石田氏は学生時代に自転車で日本一周、そして大学卒業後に自転車で世界一周を果たしている、生粋の自転車旅行家である。その著者が、3、4日かけて日本のあちこちを自転車で気軽に旅するという企画である。冒険というよりも、エッセー仕立てであり、ビールと地図を片手に、ふんふんと読んだ。
印象に残った点を2ヶ所書き留めておきたい。前半は熊本県阿蘇の旅行記の一節である。私も自転車旅行ならではの「地球」を新鮮に感じる旅を重ねていきたい。後半は本書でも随所に登場する友人との再会について述べた一節である。論語の「朋有り遠方より来る、亦た楽しからずや」を思い出した。ちょうど新型コロナウイルスの外出自粛の影響で、ずっと家にいる自分にじっくりと語りかけてくるような内容だった。ツールや同行者を問わず、旅を大事にしたい。
そうしてくだんの白川水源に着くと、「こりゃたしかにすげえわ」と目を丸くした。
木立の中に澄みきった泉があった。新しい水槽のように水の中がはっきりと見える。底は砂地で、ジオラマや森のような藻が繁茂している。そこに一ヶ所、砂が舞い、藻がたえまなく揺れているところがあった。水が猛烈に湧き出しているのだ。その水は大きな清流となって、下流へ囂々と音を立てて流れている。湧き出す水の量はなんと毎分60トン。大地から水が生まれている。そのことがはっきりと目に見える。地球-この言葉を、阿蘇に来て何度頭に浮かべただろう。
-旅のおもしろさが最も極まるのは、人と再会するときじゃないだろうか……。
旅に出なければ会うはずのなかった人に会い、別れてからはそれぞれの道を歩む。そしてときを経て再会する。その懐かしい顔を見たとたん、前回会ったときから現在まで続いている長大な時間を感じ、人生を俯瞰しているような気分になる。
この22年間は本当にあっという間だった。大学を出て、サラリーマンになり、世界をまわって、文章を書くようになった。さまざまな出来事と感情が駆け足で流れていった。そのあいだ、(旅先で再開した)お父さんはラーメンを作り続け、3人の子が結婚し、7人のお孫さんを持った。そんな互いのドラマが、二本の放物線が交わるように、ある一点で再び交差する、お互いの目尻には笑いじわが増えている。人生というのは、なんてユニークなんだ。体の奥から力があふれてくる。