日別アーカイブ: 2020年5月3日

『神苦楽島』

内田康夫『神苦楽島』(文春文庫 2012)を4分の3ほど読む。
2008年から2009年にかけて「週刊文春」に連載された小説の文庫化である。
淡路島を舞台としており、1980年にテレビのNHK特集「知られざる古代~謎の北緯34度32分をゆく」で紹介された「太陽の道」をモチーフとした旅情ミステリーである。「太陽の道」とは、ちょうど北緯34度32分上に、飛鳥時代や奈良時代の寺社が集中しているというもので、伊勢湾の神島から、三重県の斎宮跡、奈良県、和歌山、そして兵庫県の淡路島まで、ちょうど一直線に並ぶ。本作では、この太陽の道を信仰する宗教団体と大型公共投資に伴う不正に、名探偵浅見光彦が挑む。

後半の謎解きはつまらなかったので読み飛ばしたが、牛頭天王信仰などの蘊蓄は面白かった。牛頭天王とは、頭に牛の角を生やして、一見夜叉のようだけど、姿かたちは人間の格好をした神仏習合の神様である。東京品川の天王洲や八王子の地名も、牛頭天王に因むという。

「コロナ服飾不況 アジアに余波」

本日の東京新聞朝刊に、南、東南アジアの縫製労働者がコロナ不況によって、失業や賃金未払いの事態に追い込まれているとの記事が掲載されていた。

10数年前までは、繊維工業は中国が生産だけでなく消費においても大きな地位を占めていたが、近年は中国よりも人件費が安いベトナムやカンボジア、ミャンマーなどに生産拠点が移行している。バングラデシュでは衣料品製造が、年間輸出総額400億ドルの8割超を占める。記事では欧米のアパレルブランドの突然の注文キャンセルを取り上げているが、日本の企業も多数進出しているので、どこ吹く風と聞き流すことはできない。

地理の授業では「ウェーバーの工業立地論」で、こうした工業の立地や移転について学習する。アルフレッド=ウェーバーによると、多品種の商品が展開する衣服のように、多くの労働力が必要となる工業を労働力指向型工業と呼ぶ。人件費の節約のために、後発途上国を求めてどんどんと工場が移転していくため、現地で働く労働者は使い捨てとなりやすい。

歴史を紐解いていけば、明治から昭和初期にかけての日本も、絹織物産業が輸出の大半を占めてきました。機械の導入や農村地域の女性を集めることで、明治以降の産業革命を下支えしていましたが、1929年の世界大恐慌をきっかけに絹織物産業はズタボロになってしまいました。結局日本はその後満州に新天地を見出し、日中戦争へと転がり落ちていくことになります。記事にあるような南、東南アジアの経済不況が、地域紛争やテロへ繋がっていく畏れもあります。経済と政治は不可分のものであり、注視していく必要があります。