月別アーカイブ: 2019年6月

「香港 100万人デモ」

本日の東京新聞夕刊に,香港で「一国二制度」崩壊への懸念から,1997年の香港返還後最大のデモが行われたとの記事が載っていた。デモの規模もさることながら,デモを規制する警察や香港当局の姿勢に着目したい。

香港と言っても,10代の若い人にとっては,上海や杭州といった沿岸部都市の一つという認識しかないかもしれない。返還直後こそ日本のメディアは歴史の転換点だと囃し立てたものの,その後の香港の政情に関する報道はめっきり少ない。日本のマスコミは,中国共産党の政治的抑圧が喧しい新疆ウイグル自治区やチベット自治区,発生30年を迎えた天安門事件などをしっかりと取り上げてほしい。

また,教科書ではあまり取り上げられないが,1941年の12月から1945年の8月まで,香港は日本の占領下にあった。1941年12月のシンガポール(昭南島)攻略と合わせて覚えておきたい。香港の隣にある澳門(マカオ)は第2次大戦中に中立保っていたポルトガルの租借地だったため,日本軍も手を付けていない。

『現実を視よ』

柳井正『現実を視よ』(PHP研究所 2012)を読む。
ユニクロを運営するファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の著者が,ユニクロを経営する中で感じた日本人論や政治批判,自由経済のあり方について語る。
タイトルにもある「現実を視よ」という言葉は,以下の流れの中で用いられている。

 普及の名著『失敗の本質』をものした野中郁次郎氏にお目にかかったとき,太平洋戦争の敗戦も,バブル期以降の日本の衰退も,その本質は似ている,という話をされた。目の前にある現実を視ないで,過去の成功体験にとらわれて変化を嫌う。論理よりも情緒を優先し,観念論に走るといった特性は,時に取り返しのつかない結果を招く。

軍部の指導者が犯した最も許しがたい「失敗」は,若者に特攻を命じたことである。もはや日本の敗戦は明らかだった戦争末期まで,それは続けられた。肉弾を持ってすれば,米軍の圧倒的な物量に抗せる,彼我の技術力の差を覆すことができると行った,まさに現実を直視しない根拠のない観念論で,あたら有為の若者を大勢死なせてしまったのである。

しかも,司令官,指揮官クラスのエリートは「自分もあとから行く」と言っておきながら,敗戦が決まると責任をとることもないまま,今度は日本復興のために尽力する,と180度,態度を変えた。全員がそうだったわけではないが,特攻については黙して語らずという態度をとった者が多かった。
(中略)こうした無責任さを日本人特有の悪弊として考えたくはないが,発言をコロコロ変えて平然としている現代の政治家たちの姿を見ていると,太平洋戦争の「失敗」に何も学んでいないのではないかと言いたくなる。

いま必要なのは,現実を直視すること。

時代を切り拓く経営者として,過去の成功に囚われ,批判や躓きを先送りにする態度は,取り返しのつかない結果を招くことにもなる。
かといって,いたずらに目新しいことに飛びつき,変えることが主眼となっても行けない。柳井氏の述べるように,現実の問題や数字から出発し,変えるべきは変える,変えないものは変えないという大局的な判断が必要である。また,そうした判断を人任せにするのではなく,社員一人ひとりが下していく経営者感覚が求められる。

しかし,本書全体を通して,PHP研究所刊行の本なので致し方ないが,松下幸之助を全幅的に讃え,当時与党だった民主党の政策全てをこき下ろす一方的な見解の押し売りは頂けない。

ん,「全幅的」って言葉あったけ?

「メキシコ制裁関税見送り」

本日の東京新聞朝刊に,トランプ大統領が予告していたメキシコからのすべての輸入品に対する追加関税を見送ったとの記事が掲載されていた。

人件費の安いメキシコにはゼネラル・モーターズなどの米国メーカーだけでなく,トヨタ,日産,ホンダ,マツダの4社も工場を置いている。そのうちの多くが米国に輸出されている。米国とカナダ,メキシコの3国は北米自由貿易協定(NAFTA)で,域内での部品を調達し,域内で組み立てた自動車は関税を免除するというルールがある。しかし,トランプ大統領就任後,その調達比率を巡って米国はNAFTAそのものの見直しを求めてきた。

不法移民対策をちらつかせながら,自動車だけでなく,バナナやアボカドなどの農産物を含めた全ての輸入品に関税を課すというのは,これまで積み上げてきた議論や合意を強引に崩すものである。

5月に日本史の授業の中でも取り上げたが,1941年11月の日米交渉で示されたハル・ノートを巡って,当時の日本政府は拙速に開戦へとなだれ込んで行った。盗聴によって交渉過程が米国にリードされていたとの意見もあるが,ここ最近のトランプ大統領の交渉過程は,軍事力を過信した戦前の日本政府の外交姿勢を彷彿させる。

「出生率1.42 3年連続減」

本日の東京新聞朝刊に,2018年の国内の合計特殊出生率1.42に関する記事が掲載されていた。2018年生まれの子どもは戦後最低の91万8397人となり,出生率こそやや下げ止まっているものの,人口減に歯止めがかかっていない。

別掲の解説記事の中で,「2人めの壁」についての指摘されている。住宅費や教育費の負担が大きく,2人めを諦めざるを得ない夫婦が多いという。

少子化対策に特効薬はなく,厚労省担当者のコメントにあるように「子どもを産みたい人が,安心して産み育てられるような施策を講じていく」という総花的なものにならざるを得ない。

2人めを諦める理由として住宅費が挙げられているように,少子化の原因の一つは首都への一極集中である。東京への過密化を減らそうと,首都圏の大学定員の厳格化が始まったが,混乱を来しただけであり,所期の目的とはかけ離れていることは受験生の熟知するところであろう。