本日の東京新聞夕刊に,昨年7月23日に埼玉県熊谷市で41.1度の国内観測史上最高気温となった原因に関する記事が掲載されていた。
地理の授業では「気温の逓減率」と「飽和水蒸気量」の簡単な計算を用いた説明しかしないが,実際は,太平洋高気圧の張り出しや山肌からの熱の上昇など,様々な要因が絡んでくるということが理解できる。
ちなみに「気温の逓減率」とは,標高が高くなればなるほど気温が下がることである。100m上昇するごとに,平均して0.65度下がる。
話し向きは変わるが,伊勢物語の東下りの章段で,昔男一行が京都から駿河に下る折に,5月の下旬だというのに富士の頂きには雪がたいそう残っている様子を目にする場面がある。そこで,昔男は有名な「時知らぬ 山は富士の嶺 いつとてか 鹿の子まだらに 雪の降るらむ」との和歌を詠むのだが,もし在原業平が地理の勉強の中で「気温の逓減率」を理解していたならば,「時知らぬ〜」の和歌は生まれなかったかもしれない。
富士山は標高3,776mなので,単純計算で海抜0m地点より25度も低くなる。5月(さつき)と言っても,新暦に直すと現在の6月下旬,昼間の気温は当時25度くらいであろうか。あくまで予想であるが,富士山の頂上付近は高い時間帯でも0度なので,雪は早々に消えることはない。
なお,この気温の逓減率は,南米ボリビアの首都ラパスでも説明される。ラパスは標高3600mで,富士山とほぼ同じ高さに位置する。ケッペンの気候区分(正確にはケッペン自身がさだめた区分ではない)で言うと,H(高山都市)である。ラパスは赤道付近の熱帯地方にあるが,平地に比べ20度以上も低く,年較差もほとんどないので比較的過ごしやすい。
また,「飽和水蒸気量」とは,気温が下がれば下がるほど,空気中に含まれる水蒸気の量が減少することである。「気温の逓減率」と合わせて考えれば,日本海の水蒸気をたっぷりと含んだ大陸からの冬の季節風が,日本の険しい山肌を超えている際に,日本海側に大雪をもたらすことが理解できる。