柳井正『現実を視よ』(PHP研究所 2012)を読む。
ユニクロを運営するファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の著者が,ユニクロを経営する中で感じた日本人論や政治批判,自由経済のあり方について語る。
タイトルにもある「現実を視よ」という言葉は,以下の流れの中で用いられている。
普及の名著『失敗の本質』をものした野中郁次郎氏にお目にかかったとき,太平洋戦争の敗戦も,バブル期以降の日本の衰退も,その本質は似ている,という話をされた。目の前にある現実を視ないで,過去の成功体験にとらわれて変化を嫌う。論理よりも情緒を優先し,観念論に走るといった特性は,時に取り返しのつかない結果を招く。
軍部の指導者が犯した最も許しがたい「失敗」は,若者に特攻を命じたことである。もはや日本の敗戦は明らかだった戦争末期まで,それは続けられた。肉弾を持ってすれば,米軍の圧倒的な物量に抗せる,彼我の技術力の差を覆すことができると行った,まさに現実を直視しない根拠のない観念論で,あたら有為の若者を大勢死なせてしまったのである。
しかも,司令官,指揮官クラスのエリートは「自分もあとから行く」と言っておきながら,敗戦が決まると責任をとることもないまま,今度は日本復興のために尽力する,と180度,態度を変えた。全員がそうだったわけではないが,特攻については黙して語らずという態度をとった者が多かった。
(中略)こうした無責任さを日本人特有の悪弊として考えたくはないが,発言をコロコロ変えて平然としている現代の政治家たちの姿を見ていると,太平洋戦争の「失敗」に何も学んでいないのではないかと言いたくなる。いま必要なのは,現実を直視すること。
時代を切り拓く経営者として,過去の成功に囚われ,批判や躓きを先送りにする態度は,取り返しのつかない結果を招くことにもなる。
かといって,いたずらに目新しいことに飛びつき,変えることが主眼となっても行けない。柳井氏の述べるように,現実の問題や数字から出発し,変えるべきは変える,変えないものは変えないという大局的な判断が必要である。また,そうした判断を人任せにするのではなく,社員一人ひとりが下していく経営者感覚が求められる。
しかし,本書全体を通して,PHP研究所刊行の本なので致し方ないが,松下幸之助を全幅的に讃え,当時与党だった民主党の政策全てをこき下ろす一方的な見解の押し売りは頂けない。
ん,「全幅的」って言葉あったけ?