所功『伊勢神宮』(講談社学術文庫 1993)を読む。
「神殿の原型」「鎮座の由来」「恒例の祭祀」「遷宮の歴史」「遷宮の概要」「神宮の英知」の6章立てで、伊勢神宮の遷宮にまつわる歴史や意義について分かりやすくまとめられている。伊勢神宮というと、忌み嫌うべき「皇国史観」や「神国思想」の権化といった印象が強く、これまで触れるのを避けてきた。
しかし、いくつか本を読んでみて分かったことは、伊勢神宮は、人間の諸生活の全てが自然の恵みとそれを丁寧に扱う人間たちの働きがあってこそ成り立つものだという自明のことを再確認する場であるということだ。伊勢神宮では千数百年にわたり、「大御饌(おおみけ)」と呼ばれ、一日に2度播種から収穫まで全て手作りの食事が神々に振舞われる。また20年に一度、8年近い年月をかけてほとんどの宮殿が数百メートル離れた別の場所に新しく建てられる。その際には材料の一つ一つが自然から与えられることに感謝をし、また、それらが船や人の手を経て神宮まで運び込まれることに感謝の意を表した祭儀が執り行われる。遷宮に伴って8年間で22回もの祭儀が行われるのだ。
天皇の祖霊が奉られている神社ということで、戦争賛美や神風特攻隊の象徴のように感じていた。しかし、それは伊勢神宮建立後の歪んだ摂関政治や国体思想のバイアスであって、伊勢神宮そのものは、心身を清めることで、太陽や自然、そして自分を支えてくれる人たちへの感謝の気持ちを高めていく精神的な場所なのである。
『伊勢神宮』
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