月別アーカイブ: 2008年8月

パンフレット研究:専修大学

昨日の駒沢に続いて、同レベルの専修大学のパンフレットをじっくりと読んでみた。偏差値一覧表では何度も目にするが、パンフレットを読むというのは自分自身の知的好奇心も刺激されてよい。

受験業界では一般に「日東駒専」とひと括りにされるが、駒沢大学以上に、学部での学びを前面に押し出した体裁になっている。学長自ら「社会知性の開発をサポート」と謳い、全学部全学科の2008年度のゼミナールの一覧までが紹介されている。さらに、それぞれの授業内容については、各学部別のパンフレットまで用意されており、大学の持つアカデミックな雰囲気を感じる。ホームページのトップページにも「あなたにとって大学とは?」との標語が流れ、卒業要件単位は130単位を超え、そのうち一般教養科目が30単位以上課せられており、他大学との差別化を図るためか、昔ながらの大学のスタイルを保っている。

法学部の一年生と二部の学生以外は4年間、小田急線の向ヶ丘遊園にある生田キャンパスで学ぶことになる。郊外にありながら、全国から30000人以上の志願者がおり、受験の倍率も3〜6倍程度を保っているのはやはり全国区の大学である。

経済科と法律科からなる「専修学校」として出発したのが始まりであり、来年で130周年を迎える伝統ある学校である。現在では経済学部、法学部に加え、経営学部、商学部、文学部、ネットワーク情報学部の6学部で構成されている。専修大は明大と同じく、一つの大学に経営学部と商学部が混在する珍しい大学である。経済学部と「商・経営」学部の違いは分かるが、商学部と経営学部の違いはパンフレットを見てもよく分からない。苦し紛れに経営学とは「組織の管理方法を理論的・実践的に学ぶ」とあり、商学は「企業・家計を取り巻く市場環境や制度を対象とする」とある。要は経営学部の方は経営管理や労務管理的な側面を含み、商学部は会計やマーケティングを主としたカリキュラム構成になっているのだが、受験生にはよく理解できないところであろう。

パンフレット研究:駒沢大学

駒沢大学のパンフレットを読む。
渋谷から二駅の都心のど真ん中の至便な場所にありながら、駒沢オリンピック公園に囲まれた緑豊かな大学である。
江戸時代の曹洞宗の研究施設が母体となっており、1905年に「曹洞宗大学」として出発し、1925年に「駒澤大学」に改称した歴史ある大学である。
そして、先日の亜細亜大とはやはり異なり、学部の授業紹介がパンフレットの半分を占めている。駒大は、仏教学部、文学部、経済学部、法学部、経営学部、短大放射線科から改組した医療健康科学部、そしてメディアを媒介としながら世界を視るグローバル・メディア・スタディーズ学部の7学部から構成される。また大学院も6研究13専攻設置され、法科大学院も開設されている。

パンフレットを読む限り、経済学部に現代応用経済学科、経営学部に市場戦略学科、また、文学部地理学科に地域環境研究専攻を設けるなど学科レベルでの改革はしているが、昔ながらの学部構成や全学共通科目、必修第2外国語、必修保健体育科目などの枠組みは壊していない。
また、有名大学ならではのパンフレットで、2008年卒業学生の一流企業への就職活動体験談がたくさん掲載されている。高校でも大学でも同じで現役の学生が語るのが一番の宣伝である。

パンフレット研究:亜細亜大学・亜細亜大学短期大学部

亜細亜大学・亜細亜大学短期大学部のパンフレットを読む。
中央線武蔵境駅から徒歩12分の住宅街にある和やかな大学である。
経営学部、経済学部、法学部、国際関係学部、短期大学部の5つの学部で構成されているが、学部紹介のページはパンフレットの3分の1ほどしかない。その授業内容も「研究」という側面は無く、学生の「教育」に特化している趣だ。そして、その逆に、全学共通である留学プログラムや外国語教育、企業との連携教育などの紹介がパンフレットの目玉を飾っている。全学生6000人が一つのキャンパスでこぢんまりとした大学で、決して大きくもなく、小さくもないスケールメリットをよく活かしている。特に中国語や中国への留学制度が充実しているのがよい。変に背伸びして偏差値が上の大学に行くよりも、亜大で安く留学にチャレンジするのも、昨今の高校生にとってはよい経験かもしれない。
また、ロースクールのない法学部の大学パンフレット改めてじっくりと読んでみたが、完全に法科大学院への予備校か、もしくは公務員や企業への就職予備校と化している。これまた昨今の高校生には「分かりやすい」のであろう。

一芸一能推薦入試で有名な亜大であるが、現在は一芸一能に加えて、公募推薦、スポーツ推薦、アジア推薦、ホスピタリティ推薦、特別推薦、アジア夢カレッジAO入試、AO入試、それ以外に一般入試A方式、B方式、C方式、D方式、T方式がある。おそらくは学内の教職員も生徒募集に、入試やら就職やらで研究以外の仕事に忙殺されているのであろう。

創立者である太田耕造は戦前国粋主義を邁進した人物で、戦犯容疑に問われ巣鴨刑務所に拘留されている。亜細亜大学は、その太田氏が戦前に設立した興亜専門学校に由来する。興亜専門学校は国士舘大学とも関係の深かった学校で、大東亜共栄圏の思想を広める教育機関として設立されたものである。パンフレットにも「初代学長は、「自助精神」を身につけた誠実な人材を育成し、将来、アジアの独立と自由と協調を図り、人々の文化交流、経済交流が活発になり、自由アジアの興隆に貢献することを建学の使命としました」と、大東亜共栄圏の理念をそのままパンフレットに掲載している。南京大虐殺を全否定する教授もおり、大学の経営方針そのものを精査していく必要があるだろう。

パンフレット研究:星美学園短期大学

星美学園短期大学のパンフレットを読む。
赤羽にあり、京浜東北線から看板の見える大学である。人間文化学科と幼児保育学科、そして幼児保育の専攻科の3つから学科が構成されている。星美短大は、元々はイタリアにあるカトリック女子修道会の宣教師が、日本でキリスト教の精神に基づく幼稚園を開設したのが母体となっている。そのため幼児保育学科は専攻科や付属幼稚園もあり、施設も授業内容も就職も大変充実している。特に専攻科では、「幼稚園および保育所でのリーダーとなり、人のために喜びを持って尽くすことのできる保育者育成」という設置の狙いのもと、アジアの幼児教育や音楽療法、ファンタジー文学研究などの科目も設けられている。その他の科目も舞台演習や音楽技術、家族援助論など、実際の現場で使われる技術の授業が多い。オススメの学科である。

一方で、人間文化学科は、日本語日本文学、イタリア語イタリア文化、生活造形、情報文化、医療福祉管理、総合の6コースで構成されているものの、どれも中途半端な内容であるとの印象は拭えない。特に総合コースは公民館の市民大学レベルであり、金と時間の無駄であろう。しかし、人間文化学科は4年制大学への編入に力を入れており、推薦指定校も現在34大学ある。

編入というと一昔前は、あまりメージャーな進学ではなかった。しかし、星美では小論文や専門分野についての個別指導も行なっており、清泉女子大や二松学舎、和洋女子、東京家政学院大などへの指定校リストがパンフレットに掲載されている。少子化による大学と短大双方の生き残り策なのだが、果たして上手く機能しているのであろうか。

『赤目四十八瀧心中未遂』

第119回直木賞を受賞作である、車谷長吉『赤目四十八瀧心中未遂』(文藝春秋 1998)を読む。
太宰治の『人間失格』のような暗い雰囲気の漂う作品で、サラリーマン人生をドロップアウトした主人公の不安定な心理がねっちっこく描かれる。作者自らの人生経験を踏まえた「私小説」であり、舞台の尼ヶ崎や三重の赤目四十八瀧の風景が克明に描かれており、妙に印象に残る作品であった。

また、作者は、「転向作家」と一般に称される中野重治にその人生を準えているのだろうか。中野重治は東京でプロレタリア文学を志しながらも警察弾圧によって2年間獄中生活を送り、釈放後に職もなくぶらぶらしている時に、自らのアイデンティティを問う私小説『小説の書けぬ小説家』や『村の家』などの作品を発表している作家である。
作中に次の一節がある。

わたしはふと『雨は愛のやうなものだ。」という中野重治の誌の一節を思い出した。この年になっても、愛とかいつくしみとか、そんな言ノ葉の内容物はまな何も知らないのに、こんな他人の言説だけはいっぱい頭に入れているのである。