日別アーカイブ: 2006年7月27日

〈社会福祉援助技術演習4〉

 今年の初め,知的障害者更正施設で現場実習を行なった。重度の知的障害者との触れ合いの経験を踏まえて,論を進めていきたい。

〈生活リズムの確立〉
 知的障害者の場合,利用者ごとにこだわりが強く,バランスのよい食生活や睡眠のリズムが崩れることが多い。個々のこだわりやわがままを抑え,集団生活の中で,食事や睡眠のリズム,適度な運動や入浴の習慣を身につけさせていきたい。生活のパターンをむやみに変えていくと混乱を生じさせるので,基本的に毎日同じ時間に同じ行動を全員で行うことを原則としたい。食事の時間や席次,顔ぶれも同じくし,運動も曜日ごとにパターンを決めて全体の日程を組むと,見通しを持ちやすく,パニックを起こすことも少ない。

〈身辺処理の自立〉
 更衣や通所通勤,持ち物の管理といった自律的生活習慣においては,個々の利用者の生活能力と行動力に応じ,一人ひとりに合ったプログラムを組んでいきたい。一から十まで支援するのではなく,利用者の現能力より少しだけ高いところに目標を置き,支援者の指導と助言によって,利用者が努力と達成感を適度に得られるような工夫があるとよい。例えば,服を着替えることができるが自分で行おうとしない利用者に対しては,指図と声掛けを中心に行い,ボタンやベルトを締めることが難しい利用者へは,手を支えて行動を促すなど,本人の行動を少しだけ支えるようにすると利用者とのやりとりもスムーズである。

〈仕事(作業)への参画〉
 朝起きて作業現場に赴き,仲間とともに作業に携わり,報酬を得る仕事は,社会に関わる自分の存在と責任を確認することができる最も人間らしい行動である。利用者の能力と意欲に応じた労働の場所と機会を少しでも増やしていくことが,福祉援助の大目標である。
 重度の知的障害者の場合,見通しの持ちやすい作業体系を組んでいく必要がある。行動の確認が取れやすいように,それぞれの工程を細かく分割し,一つの作業を単純にするといった工夫が求められる。さらに,自分の関わった作業が最後に完成形として見えやすくすると達成感を得やすい。陶芸や手芸など完成したものを手に取ったり,清掃活動やジグソーパズルなど明らかに目に見えるゴールを設定することが求められる。

〈家庭・地域との連携〉
 知的障害者を受け入れてくれる福祉工場や授産施設,作業所はまだ少ないのが現状である。家族や行政,地域のボランティア団体との協力で,先頭に立って施設や作業所を開設していくことも福祉援助技術に含められる。
 重度の知的障害者を長いスパンで支援していくには家族の理解と協力が不可欠である。障害者を支える家族は家族関係含めて様々な悩みを抱える事が多い。家族支援を視野に入れた福祉援助技術が,今後の社会福祉士には求められる。

〈参考文献〉
飯田雅子・一番ケ瀬康子「障害者福祉Ⅱ」『新・社会福祉とは何か?』ミネルヴァ書房,1990

〈児童福祉論2〉

 私の居住する埼玉県春日部市における次世代育成支援計画について述べてみたい。東京のベッドタウンとして発展してきた春日部市も,2003年の段階で,合計特殊出生率1.13と全国平均を大きく下回っている。また,恐喝や暴行などの少年犯罪も増加している。

 市のアンケートでは,子育て支援として,経済支援がトップを占め,次に保育所や幼稚園の整備,さらに児童館や公園などの子どもの遊び場の拡充が挙げられている。これらの調査を踏まえ,春日部市では「地域社会における子育て支援サービスの充実」「母性,乳幼児等の健康の確保と増進」「学校と地域との連携による教育力の向上」「子育てを支援する安全・安心な生活環境の整備」の4項目を目標に掲げ,「子育て支援ネットワーク」の形成を中心とする200近い施策を盛り込んだ計画を発表した。

 一つ目に,保育サービスの向上施策を取り上げて見たい。市内には公立8ヶ所,私立9ヶ所の保育所が設けられているが,公立私立とも定員を大きく超えているのが現状である。また休日・夜間保育を行なっている保育所はなく,共稼ぎや母子家庭に大きな負担が強いられている。計画では定員の弾力化による受け入れの拡大,午後7時までの延長保育の拡充や,一時預かり,乳幼児子育て相談,さらに幼稚園の空き教室を利用した乳幼児の保育事業などが掲げられている。しかし,ニーズの高い休日保育事業は新規に1ヶ所のみ行われるだけである。特に公立の保育サービスの時間延長の動きは鈍く,公務員の勤務体系そのものを根本的に変えていかなくては,利用者のニーズを満たすまでに至らないであろう。

 また,児童虐待防止対策として,パンフレットや講演による啓発や教育相談窓口の設置,助産士による子育て支援講座などが謳われている。しかし,その受入先となる児童相談所との実質的な連携は計画に入っていない。警察や教育機関との協力体制の構築が不可欠と指摘しているが,口当たりのよい宣伝文句だけで,市役所がリーダーシップをとった施策は全く省かれている。昨今,親権者による虐待事件がマスコミを賑わすが,啓発と相談体制の充実だけでは,画餅に終始してしまう。さらに一歩踏み込んだ取り組みを期待したい。

 最後に,少年犯罪の増加や核家族化が進む中,高齢者と児童が交流することで,人とのふれあいが育まれると喧伝する「昔の遊び教室」を検討したい。何ともアイデアのないお役所的な発想であり,2つの公民館で実施されているが,ほとんど参加者もいないのが現状である。長続きする世代間交流は,様々な年代の人が集まって,学び教えあう生産的な活動である。地元の野球チームや剣道会などでは,親子3代にわたった活動も珍しくない。無理に交流を仕立て上げるような机上の発想を捨て,地域のスポーツ団体や武道団体,各種サークルなど民間の活動を促すための補助金や施設開放を優先したい。

 参考文献
 春日部市役所「春日部市次世代育成支援行動計画」2005

〈医学2〉

 痴呆は様々な原因によって,脳の中のいろいろな場所,特に前頭葉,側頭葉,あるいはそのなかの記憶を司る海馬というところが損傷を受けることで症状が出てくる。痴呆そのものは若い人でも起こる可能性があるが,高齢,特に80歳を超えると4〜5人に一人が痴呆症になると言われている。脳の老化と密接に関連して起こる老化性痴呆には大きく分けて次のタイプがある。

脳血管性痴呆
 脳血管性痴呆の原因となる病気はいろいろとあるが,もっとも重大なのは,脳梗塞や脳出血の下地となってしまう,脳の動脈が堅く狭くなる脳動脈硬化症である。脳の神経細胞へ酸素や栄養が届かなくなり障害が起きてしまう。脳梗塞や脳出血後の痴呆は,男性に多く,脳の障害がまだら状に起こるのが特徴である。初期段階では物忘れを自覚し,人格は保たれやすいが,些細なことで怒り出したり泣き出したりする感情失禁やせん妄が起こりやすく,しびれや動きの鈍さ,まひなどの行動面での障害を伴うことが多い。症状が動揺しやすく,階段状に進行していく。画像診断で梗塞などの病巣が分かる。危険因子として高血圧,高脂血症,糖尿病,心臓病,肥満,喫煙の習慣,酒の飲みすぎ,ストレスなどが挙げられる。

変性性痴呆
 脳の実質の変成により神経細胞が脱落し,脳が萎縮して起こる。アルツハイマー型痴呆はその代表で,ベータプロテインという蛋白がアミロイドという異常蛋白を作り,老人斑というシミを増やし,神経細胞に糸くず状のものが溜まり,大脳皮質の神経細胞が全般的に変性し脱落することで障害が生じる。アルツハイマー型は女性に多く,なだらかに進行するのが特徴である。機能低下が全体的に起こり,物忘れの自覚が失われ,感情表現も乏しくなりがちである。仮性作業や仮性対話が起こりやすく人格が変わることが在る。また異常な言動を起こしやすく,最終的には身体機能も低下して寝たきりになってしまう。MRI画像診断で脳の萎縮状態を診ることができる。

内蔵疾患による痴呆
 また,痴呆の症状は脳の病気だけが原因ではない。内蔵の病気に伴って脳症を起こし,痴呆の症状が出ることが在る。例えば,高血圧や糖尿病が悪化して腎臓の機能が低下すると,「尿毒症」を起こして意識障害や痴呆の症状が出ることがある。肝硬変が進行して肝臓の機能が低下すると,血液中にアンモニアなどがたまって脳をおかすことがある。これを肝性脳症という。また,糖尿病で血糖降下薬あるいはインスリンを使用している人では,空腹状態が続いたりして血糖値が下がり過ぎると,意識が朦朧としたり,高齢者では痴呆のような症状が出ることが在る。これを低血糖性脳症という。万が一発作が起こったら,すぐに砂糖や甘いジュースなどで糖分を補うと症状が治まる。

参考文献
小阪憲司「治る痴呆,防げる痴呆」『痴呆症はここまで治る』 主婦と生活社 1998年

〈障害者福祉論2〉

 わが国における障害者雇用施策の基本となる法律は1960年に制定された身体障害者雇用促進法である。その後,障害者雇用が努力義務から法的義務へと強化され,知的障害者や精神障害者にまで対象を拡大することなどが盛り込まれた。1992年には雇用の促進に加え,雇用の安定を図ること及び職業リハビリテーション対策の推進を内容とする「障害者の雇用の促進等に関する法律」に変更された。2006年にはIT関係などの在宅就業障害者や在宅就業支援団体に対する給付も始まっている。現在の法定雇用率は,数度の改正を経て,常用雇用労働者数が56人以上の民間企業は1.8%,国及び地方公共団体・特殊法人2.1%となっている。また,雇用率の計算にあたっては重度の障害者については1人を2人分とするなど,重度の障害者の雇用をも進めている。

 しかし,障害者の実際の雇用状況については,ここ30年間で大きく向上したものの,法定雇用率をなお0.32ポイント下回っている。障害者の法定雇用未達の事業主は不足分1人につき,月額5万円が徴収されているが,常用雇用労働者数が300人以下の事業主は納付金が免除されており,大企業でも納付金を納めてしまった方が「お得」だと判断する事業主も多く,雇用率は頭打ちしている。私の住む埼玉県の民間企業では1.41%,さらに,従業員100人から299人規模の企業での障害者雇用率は1.1%となっており,いずれも全国平均を大きく下回っている。

 今後,障害者の雇用率を上げ,安定した雇用環境を作っていくには,養護学校との連携がますます重要になってくると考える。ここ20年,養護学校が量的に質的にも充実し,大半の障害者が養護学校高等部で学ぶ環境が作られてきた。しかし,現在教育現場と労働現場の人的交流はほとんどなく,学校側では卒業生を送り出した後のフォロー体制が未整備であり,一方,受け入れ先の労働現場でも白紙の状態で卒業生を受け入れざるを得ず,高等部まで積み上げてきた教育実践を生かしきれていない。

 埼玉県川口市で知的障害者を数多く受け入れている千代田技研という鋳造工場を経営する鈴木静子さんは,教育と労働の連携の未整備という状況を踏まえ,障害者の指導に当たる公的な専門員の制度を提案している。障害者の対応に長けている専門員が,養護学校在学時から卒業後一定期間,企業で障害者の教育,指導に当たってくれたら,ますます障害者を受け入れる企業が増えていくだろうと述べている。

 文科省は特別支援教育施策の中で,学校卒業後までの一貫した福祉や労働機関との連携のもとで,1人ひとりの教育的ニーズに応じた支援を行う「個別の教育支援計画」の作成をすすめている。現状では生徒個人にまつわる関係機関名が書き込まれた書類の作成に留まっているが,今後職業教育と雇用が一体となった体制が組まれることが期待される。

〈参考文献〉
鈴木静子『向日葵の若者たち:障害者の働く喜びが私たちの生きがい』本の泉社,1998

〈介護概論〉

 日本では介護を嫁や娘など家族に頼る傾向が戦後も長く続き,介護に従事する者を単なる家事手伝いのように捉える土壌が作られてしまった。1974年発行の「社会福祉辞典」によれば,介護とは「介助や身のまわりの世話をすること」とあり,その介護に当っては「家族がする場合と本人や家族を援護するための家庭奉仕員や施設職員などがする場合があり,特に疾病の独居老人の援護の場合,近隣の主婦などの『介護人』がその業務の従事者」とあり,家族もしくは家族に代わる者のみが介護に携わっていた当時の現状が伺われる。そして,核家族化・少子化が進展し,介護を他の組織や民間業者に委託するようになった現在でも,介護士を女中扱いしてしまう利用者も多い。

 しかし,デイサービスやグループホームなど家庭以外での様々な福祉サービスができ,四点杖や電動車椅子などの福祉機器が高度化していく中で,医療や看護との連携,介護に携わる者の専門性がますます問われるようになってきている。利用者の肌に直接触れて言葉を交わす介護士こそが利用者にもっとも身近な窓口である。介護士の専門性を周囲が認め,今後の介護サービスにおいては,介護士を中心とした組織の態様への変換が求められているといって過言ではない。

 そうした介護士の専門性の保障として,1987年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定された。その第1条では「介護福祉士の資格を定めて,その業務の適正を図り,もって社会福祉の増進に寄与することを目的とする」とその大枠を定め,第2条において「専門的知識及び技術をもって…介護を行い,ならびにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者」と定義づけた。介護に直接当るだけでなく,介護に関する教育・指導者としての役割も期待されている。さらに,信用失墜行為の禁止や秘密保持も盛り込まれ,資格保持者に対する信用を裏付けている。また,介護の具体的な場面においては,看護業務と介護業務が密接不可分であることを踏まえ,第48条で「その業務を行なうに当たっては,医師その他の医療関係者との連携を保たなければならない」と定め,医療福祉のチームワークにおける重要な要の役を担うこととなっている。

 厚生労働省は2006年7月,介護福祉士の資格取得の条件を厳しくする方針を決めた。国家試験を受けずに資格を取得できた介護専門学校の卒業生らも国家試験の合格を必須とし,実務経験後に試験を受け介護福祉士となる介護施設職員やホームヘルパーには試験の前に一定の教育を義務付ける制度に変更するということだ。

 国家試験を経て,専門的知識と技術を身に付けた介護福祉士の質的向上を図ることが,組織の中で介護職が自立するのに最も重要な要件であり,国家試験の厳格化は避けて通れないであろう。

〈参考文献〉
社会福祉専門職問題研究会『社会福祉士介護福祉士になるために』誠信書房,1994
藤原瑠美『残り火のいのち 在宅介護11年の記録』集英社新書,2002