〈介護概論〉

 日本では介護を嫁や娘など家族に頼る傾向が戦後も長く続き,介護に従事する者を単なる家事手伝いのように捉える土壌が作られてしまった。1974年発行の「社会福祉辞典」によれば,介護とは「介助や身のまわりの世話をすること」とあり,その介護に当っては「家族がする場合と本人や家族を援護するための家庭奉仕員や施設職員などがする場合があり,特に疾病の独居老人の援護の場合,近隣の主婦などの『介護人』がその業務の従事者」とあり,家族もしくは家族に代わる者のみが介護に携わっていた当時の現状が伺われる。そして,核家族化・少子化が進展し,介護を他の組織や民間業者に委託するようになった現在でも,介護士を女中扱いしてしまう利用者も多い。

 しかし,デイサービスやグループホームなど家庭以外での様々な福祉サービスができ,四点杖や電動車椅子などの福祉機器が高度化していく中で,医療や看護との連携,介護に携わる者の専門性がますます問われるようになってきている。利用者の肌に直接触れて言葉を交わす介護士こそが利用者にもっとも身近な窓口である。介護士の専門性を周囲が認め,今後の介護サービスにおいては,介護士を中心とした組織の態様への変換が求められているといって過言ではない。

 そうした介護士の専門性の保障として,1987年に「社会福祉士及び介護福祉士法」が制定された。その第1条では「介護福祉士の資格を定めて,その業務の適正を図り,もって社会福祉の増進に寄与することを目的とする」とその大枠を定め,第2条において「専門的知識及び技術をもって…介護を行い,ならびにその者及びその介護者に対して介護に関する指導を行うことを業とする者」と定義づけた。介護に直接当るだけでなく,介護に関する教育・指導者としての役割も期待されている。さらに,信用失墜行為の禁止や秘密保持も盛り込まれ,資格保持者に対する信用を裏付けている。また,介護の具体的な場面においては,看護業務と介護業務が密接不可分であることを踏まえ,第48条で「その業務を行なうに当たっては,医師その他の医療関係者との連携を保たなければならない」と定め,医療福祉のチームワークにおける重要な要の役を担うこととなっている。

 厚生労働省は2006年7月,介護福祉士の資格取得の条件を厳しくする方針を決めた。国家試験を受けずに資格を取得できた介護専門学校の卒業生らも国家試験の合格を必須とし,実務経験後に試験を受け介護福祉士となる介護施設職員やホームヘルパーには試験の前に一定の教育を義務付ける制度に変更するということだ。

 国家試験を経て,専門的知識と技術を身に付けた介護福祉士の質的向上を図ることが,組織の中で介護職が自立するのに最も重要な要件であり,国家試験の厳格化は避けて通れないであろう。

〈参考文献〉
社会福祉専門職問題研究会『社会福祉士介護福祉士になるために』誠信書房,1994
藤原瑠美『残り火のいのち 在宅介護11年の記録』集英社新書,2002

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