月別アーカイブ: 2005年5月

『和田式書きなぐりノート合格法』

和田秀樹『和田式書きなぐりノート合格法』(学研 1993)を読む。
受験技術や社会人教育についての著書も多い和田氏が、現役高校1、2年生を対象に受験のノウハウをまとめている。単に板書を丸写しにするだけのノート作りには何の意味ないと断言した上で、自分なりの理解の過程や注意事項をまとめたノート作りを提案する。そうした自分なりの理解の仕方を併記したノートを作っていくことで、自分の得意な分野、不得意な分野が見え、自分の勉強のペースが作りやすいのである。「ポートフォリオ」的に自分の現状を客観視するためのノートを作成することで、受験に対するいたずらな不安も消えていくというのだ。ノートのまとめ方について具体的な作成例も紹介されており、受験生にお勧めしたい本である。

『ナノテクが日本を救う』

 池澤直樹『ナノテクが日本を救う』(講談社 2002)を読む。
 原子や分子の大きさを表すための10億分の1を意味する「ナノ」レベルの技術開発を何とか素人が理解できる程度に解説している。10億分の1というと、地球がビー玉のサイズになってしまうほどの小ささである。これまで半導体や光学技術は徹底して小さくすることで技術革新を図ってきたが、すでにそうしたトップダウン式の微細化は限界が生じているという。今後は原子や分子といったパーツを組み合わせることで単分子トランジスタやナノ粒子を利用した材料の開発が求められる。そのようなボトムアップ式の原子や分子から世界を見ると、すべては原子の操作で動いているということが分かる。そうなると現実では画然している材料技術、情報技術、バイオ技術の先端技術の全てが原子のレベルで統合されるようになる。
 日本では大学の学部のレベルで理学、工学、生物学、医学でタコ壺型に研究が分割されているが、50年後には「ナノテク学部」に全て統轄されてしまうのだろうか。

『生命進化7つのなぞ』

中村運『生命進化7つのなぞ』(岩波ジュニア新書 1990)を読む。
生物学入門と名打ってはいるが、光合成や代謝の説明など中高生向けの本とはとても思えないほど専門的な説明に終始している。だが、原始の海に生息したバクテリアから私たち現人類ホモ=サピエンスまで、生命は「種の保存」というプログラムに従って、遺伝子レベルから生活レベルに至るまでその形態を大きく変化させてきたその妙には驚くばかりである。かつて大友克洋監督の『AKIRA』という映画では、生命が進化する根本の力を「AKIRA」と命名して、その莫大な力を人類がコントロールすることの難しさがテーマであった。この本でも著者中村氏は生命進化の頂点に位置する人類こそが生命体系全体に責任を負うべきだと主張している。

『電気を発見した7人』

渡辺勇『電気を発見した7人』(岩波ジュニア新書 1991)を読む。
ガルバーニによる電気の発見からボルタ、エルステッド、アンペール、オーム、ファラデーを経てマックスウェルによる電磁力学まで、私たちの生活を支える電気の発展の歴史を丁寧に解説している。「V=IR」とはオームの法則として有名な公式であるが、私たちは電流は流れるものとして、そして電圧は電流を流す圧力として何の疑いも持たずに暗記してしまうが、この公式が生まれるまでに様々な試行錯誤の実験が繰り返された。オームの公式で”I”は電流を指すが、これは元々電気というものにびっくりした研究者が放電による激しさや感電したときの衝撃の強さ、厳しさを示す”intensity”が由来となっている。この言葉一つとっても電気に人生を懸けてきた研究者の思いが伝わってくる。

オームの法則が15年間も認められずその正しい実証的な結果を歪曲したのは、「思想」というヘーゲル哲学派の暴力でした。科学に思想がないのかというと、科学にこそ実は思想が大切なんだということを、わたしたちは話し合ったのではないでしょうか。つまり電圧という思想をもつことによって、それまであいまいで不明瞭な電気の性格が、的確に、しかも全体がはっきりしてきます。電流、電圧、抵抗、そういう考え方ができあがってきて、はじめて電気回路という全体像が明確になったのです。思想というと社会科学や政治にかんすることをいうものだと思っているかもしれませんが、電圧という言葉のもつものも立派な思想であると私は思います。そのことを理解しないと、科学の言葉がもっている本当の意味が理解できなくて、ただ数式を暗記したり、問題を解くために公式を覚えているだけになってしまうでしょう。

『マンガ心理学入門』

 ナイジェル・C・ベンソン『マンガ心理学入門:現代心理学の全体像が見える』(講談社ブルーバックス 2001)を読む。
 発達心理学から社会心理学まで心理学の歴史とその守備範囲を分かりやすく解説している。題の通り心理学の全体像を探るにはうってつけの入門書であろう。現代心理学のアメリカで発達し、異性愛の白人男性を標準として「正常−異常」「優等−劣等」が測られてきたが、著者はそうした白人優勢主義を増幅する危険性に対する一定の批判を踏まえ、心理学の将来を論じる。