那須野泰『こんな小学校をつくります。:新しいエリートを育てる』(グローバル教育出版 2003)を読む。
埼玉県の東部に位置する開智学園総合部(小中高一貫教育)の開設前の、おそらくは保護者向けの企画書となっている。そのため「クリエイティブなアナログ人間」や「学びのスタイルとしてのワークショップ」、「主体的な行動と発見のための場」「情報+デザイン=情報美術」といったソニー顔負けの宣伝文句コピーが並ぶ。
小学校設立の準備室長である著者は、6・3・3の硬直化した同年齢の輪切りの教育制度では子どもの能力を伸ばしきれないと「4・4・4制」を導入し、新しい「エリート教育」を提案している。北海道大学医学部で認知心理学を教える澤口俊之教授の理論を支柱にしながら、小学校1年生から「生活・能力開発型」の4年間を送り、次に5年生から「教科・知識習得型」の4年間、そして中学3年生から「専門型・大学進学型」の4年間と、12年間を4年という期間で区切りながら、習熟度別授業の早期導入や少人数制、フィールドワークなど私学ならではの進学体制を売りとする。学童保育、幼稚園での指導を経て、静岡県の養護学校(小学部)で教員をしていた経験だろうか、小学校1年生から4年生までの異学年齢で学級を構成したり、自学自習を超えた自分なりの学びの時間である「パーソナル授業」、米作りや演劇をカリキュラムに据えるなど、新しい学校というよりも、新しい教育制度を提唱している。著者のアイデアの大半は「幼稚園教育要領」や特殊教育諸学校における「個々の生徒に応じた学習計画」や「自立活動」をベースにしている。ちょうど100年ほど前、澤柳政太郎が作った成城小学校や小原国芳が作った玉川学園といった大正自由教育に対する憧れをうまく絡めながら、進学校としてまとめようとしている。
これから出来る私立小学校はこの開智学園総合部をどのような視点で捉えていくのか問われるであろう。それほどの内容を持っている教育体系を備えている。
今の若者のクールを気取った生き方、人間関係で余分な軋轢を避け、希薄な友人関係を好む傾向も、以前、地域社会にあった異年齢で構成するコミュニティーの喪失が最大の原因ではないかと考えます。地域に異年齢の集団があった時代には、学校は教科だけを教えていればよかったのです。道徳や社会性などは地域社会で自然に学習できたからです。
集団生活のなかで上下関係を学ぶ機会がなくなった現在では、学校がそのような機会や場を築いていく必要があるのです。それが総合部ではじめる異学年による学級集団=異学年齢学級です。学校生活の母体となる学級を異学年の集団で構成することが、今、まさに重要な意味を帯びてきたのです。