鳥飼玖美子『歴史を変えた誤訳』(新潮社OH!文庫2001)を読む。
戦後の日米の政治・軍事・経済に関して、日米の委員会の取り決めや条約について誤訳や故意の意訳がなされ、当時の与党自民党に都合が良いように国内で解釈されてきたという事実には開いた口が塞がらない。例えば日米ガイドラインの英語テキストでは
Cooperating as appropriate,they will make preparations necessary for ensuring coordinated responses according to the readiness stage selected by natural agreement.
の部分は著者によると次ぎような訳になる。
「日米両国政府は、適切に協力しつつ、合意によって選択された即応態勢段階に従い、日米間の連繋した対応を確保するために必要な作戦準備を行う」
しかし政府訳は野党や米国追従を批判する保守勢力に配慮してか、焦点を誤摩化した次のような訳になっている。
「日米両国政府は、適切に協力しつつ、合意によって選択された準備段階に従い、整合のとれた対応を確保するために必要な準備を行う」
この他「周辺事態」や「同盟」「指揮権」など様々な日米安保に関する軍事用語が憲法の枠内であるかのごとく意訳されている。しかし訳語によって憲法をないがしろにするとは国民を愚弄している以外何物でもない。
また「オーク」という語は一般に日本で「樫」と訳されているが、それは全くの誤訳であり、正しくは「水楢」雑木であるという指摘は思わず「へえ~」だった。