芥川龍之介『侏儒の言葉』(岩波文庫1932)を読む。
芥川ならではの箴言集である。薄い本であったが、久々にくすっと笑ってしまう本であった。彼の芸術および社会に対する批判的な視座がかいま見え、彼の人生観そのものが底流に流れている。そのアフォリズムの一部を紹介しよう。
道徳は常に古着である。
強者は道徳を蹂躙するであろう。弱者はまた道徳に愛撫されるであろう。道徳の迫害を受けるものは常に強弱の中間者である。
好人物は何よりも先に天上の神に似たものである。第一に歓喜を語るのによい。第二に不平を訴えるのによい。第三に――いてもいないでもよい。
最も賢い処世術は社会的因襲を軽蔑しながらも、しかも社会的因襲と矛盾せぬ生活をすることである。
自由思想家の弱点は自由思想家であることである。彼は到底狂信者のように獰猛に戦うことはできない。
彼は最左翼のさらに左翼に位していた。したがって最左翼をも軽蔑していた。
そして、1927年すなわち芥川の自殺した年に最後の箴言が書かれている。
眠りは死よりも愉快である。少なくとも容易には違いあるまい。