秋山ちえ子『雨の日の手紙』(文春文庫 1983)を読む。
雨の日にだけ差出し人を限定せずに書いた手紙をまとめたものだ。秋山ちえ子さんは,昨年までラジオ番組『秋山ちえ子の談話室』を45年間も続けた評論家である。現在も毎週日曜日『秋山ちえ子の日曜談話室』でパーソナリティをつとめている。
この本は1986年に刊行された本の文庫化で内容的には日航機墜落事故など古いものばかりである。毎年8月に戦争についての発言を地味ながら続けている。この本の中でも戦争に直接触れないまでも,中曽根首相(当時)の靖国神社公式参拝に対する素直な批判を述べている。
彼女は旅行について,「かけ回る」見物的要素をなるべく排除し,ぶらっと「立ちどまる」ゆったりとした要素を重要視する。私も明日行く先も知れない気ままな旅が好きである。
仕事をしていて行きどまりの道に入りこんだような時,立ちどまってひと息つくと,もっと他に道があることや,引き返すことも出来ることに気がつく。目的地に向かってせっせと歩いている時,ふと立ちどまって顔をあげると,空全体が夕焼けの空に染まり,それが白い壁や窓ガラスに妖しい美しさを添えているのが見える。そんな時の心のふくらみもいいものだ。腹が立った時,目をそらせて深い呼吸をすることで,いつまでも悔いを残すようなことを口に出さないですむ。