日別アーカイブ: 2003年8月26日

『田宮模型の仕事』

tamaiyamokei_book

田宮俊作『田宮模型の仕事』(文春文庫 2000)を読む。
フェラーリのエンジニアをして「実物の自動車を作る術を知りたければ,最初にタミヤのキットを組み立てるのが近道さ」と言わしめるほどのディテールの細かな商品群を配し,そして小中学生の男子のほとんどを虜にしたミニ四駆の発売元で知られる田宮模型の社長による創業から現在までの一代記である。
1/12や1/35といったスケールモデルという真似の世界であるが,そこから本物すら凌駕してしまう職人気質はモノ作りの原点であろう。書道にも「楷書,行書,草書」と真似から始まって,自分の格を作っていく教えがある。

いまの子どもたちは工作のために工具を使う,といった機会がまったくといっていいほどなくなってしまいました。ナイフで鉛筆を削ることも,板に釘を打ちつけることも経験しないまま,大人になってしまうのが最近の傾向です。ところが誤解してはいけないのは,子どもたちはそういったことが嫌いではないということです。ミニ四駆の会場で目を輝かせながら,さまざまな工具を使ってキットを改造している子どもたちの姿を私は忘れることができません。工具を使って,自分の手で何かを作り上げていく,そういった機会を大人たちが奪ってきたのではないでしょうか。些細なことでも工作用の工具を使って取り組み,興味を持ってくれる子どもたちを発見したことは,ミニ四駆でメーカーが学んだいちばんの宝だと思います。
自分の手で,指で「モノ」を作るという作業を,子どものうちに経験することの重要性は21世紀になっても変わらないはずです。(中略)さまざまなハイテク,ローテクと結び合いながら楽しい模型の世界を広げていく,それが私たち模型メーカーの役目であり,世界の模型市場のリーダーシップを担うタミヤの仕事である,と私は考えます。

ミニ四駆ブームが80年代後半から90年代にかけて2度あったことを始めて知った。その中で著者は完成の達成感と改造の創造力を併せ持つミニ四駆が小中学生にとって普遍的な教育的機能を持つと判断し,次回のミニ四駆ブームに備えて開発を進めているそうだ。このような企業理念を持った会社を社会的に評価していくべきであろう。