読書」カテゴリーアーカイブ

『乳と卵』

第138回芥川賞受賞作、川上未映子『乳と卵』(文春文庫 2010)を読む。
「文學界」2007年12月号に掲載された作品であり、同2008年3月号に掲載された『あなたたちの恋愛は瀕死』も収録されている。

なかなか男性には分かりにくいテーマであった。豊胸手術に臨む母と、初潮の時期が近づく娘との微妙なすれ違いが描かれる。お乳をあげたことで凹んでしまった胸を悲しむ母を見ることで、娘は自分の生を否定されたと感じる。そして、そうした母に近づいていく象徴としての初潮を嫌悪してしまう。最後は母子共々、卵子のメタファーでもある玉子をぶつけ合う印象的なシーンで締めくくられる。

ビール片手に読んだためか、主人公の繊細な身体感覚に共感することができなかった。

『古川』

第8回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作、吉永達彦『古川』(角川書店 2001)を読む。
表題作の他、『冥い沼』という作品も収録されている。
最近、あまりに疲れており読書に気が向かなかったので、本棚に眠っていた読みやすいホラーの短編を手に取ってみた。冷蔵庫が普及し始めた1960年代初頭の大阪のどぶ川沿いの長屋が舞台となっている。過去に恨みを持って古川で亡くなった亡霊どもと、長屋で暮らす霊能力を持った弟と姉との「戦い」が描かれる。
アクションアニメのノベライズのような雰囲気の作品で、亡霊との「戦闘シーン」が巧みに描かれるのだが、いまいち作品世界にはまることができず、後半は読み飛ばしていった。

『アホ大学のバカ学生:グローバル人材と就活迷子のあいだ』

石渡嶺司・山内大地『アホ大学のバカ学生:グローバル人材と就活迷子のあいだ』(光文社新書 2012)を読む。
先月の「週刊SPA」に掲載された、著者の石渡氏の「ド底辺大学のキャンパスバカライフ」と題した記事を読み、仕事とも繋がる内容だったので取り寄せてみた。
週刊誌は「ケンカ」や「万引き」といった煽るような内容であったが、新書の方は定員割れしている大学の内実だけでなく、その中で工夫を凝らす大学の紹介や、効果的な宣伝の指南、様変わりする就活の実態など、大学全入時代以降の大学の抱えている悩みを丁寧に追っている。
「特進クラス」や「国際・グローバル人材」、「面倒見の良さ」、「インターンシップ」といった近年の大学のトレンドについて分かりやすくまとめられており、高校の進路担当教員として知識を整理することができた。

『ヘル』

筒井康隆『ヘル』(文藝春秋 2003)を読む。
先日読んだ『ポトスライムの舟』があまりに日常感覚べったりの小説だったので、少し毛色の違うものということで手に取ってみた。「ヘル」と呼ばれる、死後の世界と夢の世界が渾然一体となった時間と空間を超越した世界の中で物語は展開していく。
死の直前のパニックに陥った心理描写など、筒井氏の奇才が遺憾なく発揮されている作品であった。
「荒唐無稽」という四文字熟語一言では収まりきらないほど、筒井氏の才能の爆発ぶりが目立つ作品である。

『ポトスライムの舟』

第140回芥川賞受賞作、津村記久子『ポトスライムの舟』(講談社 2009)を読む。
表題作の他、「群像」に掲載された『十二月の窓辺』という作品も収められている。
どちらも社会や周囲との人間関係と同調できない自分を描いているのだが、「当たり前じゃないか」というツッコミを入れたくなるような内容であった。
女性的な感覚に溢れる作品と言えば恰好がつくのであろうか。