読書」カテゴリーアーカイブ

『駈ける野望』

豊田行二『駈ける野望』(廣済堂文庫 1991)を読む。
デパートに勤める「醜男」西沢雄太郎が出世をかけながら次々と女性と一夜と共にする官能小説である。時代設定も1970年代の「モーレツ社員」の頃であろうか、温泉マークの俗称である「逆さくらげ」やエレベーターガールとの情事など時代を感じるシーンが登場する。
競争に疲れたサラリーマンが駅前のキオスクなどで通勤帰りに堪能したのであろうか。

『ラブホテル裏物語』

大月京子『ラブホテル裏物語:女性従業員が見た「密室の中の愛」』(文春文庫 2010)を気晴らしに読む。
タイトルの通り、ラブホテル業界で20年働いてきた著者が、ラブホテルの珍事件や困ったお客、使用後の部屋の掃除のコツ、忘れ物やコスプレ、さらには昭和の時代のラブホテル事情など丁寧に語っている。

ラブホテルというと一般的にいかがわしいイメージがあるが、裸の男女(男男、女女も含む)が密室にこもるという特殊状況において、人間の感情の機微や隠している趣味などが露になる

『地図の歴史:日本篇』

織田武雄『地図の歴史:日本篇』(講談社現代新書 1974)を読む。
先日来、今年の夏休みで四国の酷道(国道)を突っ切ろうか、紀伊半島を周遊しようかと、地図とにらめっこしていたので、ふと手に取ってみた。
新書にしては随分と版を重ねている本で、手にしたのは2002年発行の第18版であった。

放送大学の教科書か地理学の参考書のような内容で、奈良時代の行基によって描かれた地図と江戸時代伊能忠敬の実測日本図の二つを柱としながら、荘園管理や参勤交代、鎖国などの政治テーマと密接に絡む地図の歴史について述べられてる。特に軍事的理由から正確な地図を表にしたがらない江戸幕府が伊能忠敬の地図を半世紀もお蔵入りさせたエピソードなど興味深かった。
冒頭、筆者は次のように述べる。

地図とは、大地にしるされた人間の足跡であり、未知の地への飽くことなき願望の証しであり、それはそのまま、それぞれの時代の人間が、どのように世界を把えていたかを、私たちに示してくれる確かな歴史であるといえよう。

単純に高校生が憧れそうな格好いい文である。筆者は地図の進化の歴史が、人類の世界認識および行動範囲の拡大の歴史であると定義付けている。

『知らなかった!驚いた!日本全国「県境」の謎』

浅井建爾『知らなかった!驚いた!日本全国「県境」の謎』(実業之日本社 2007)を読む。
ここしばらく、高知や北海道といった地方を舞台にした映画を観ており、本棚からふと取り出して手に取ってみた。タイトルの通り、47都道府県の成立とその境界線にまつわる雑学である。
一般には、明治政府による「廃藩置県」によって、それ以前の藩が全て廃止されて、すぐに47都道府県に移行したと考えられがちである。しかし、旧藩以来の地的人的な結びつきは強く、明治政府も一度は3府41県を成立させ、その後、3府302県、3府72県という変遷を辿っている。そのため帰属する県が数度も替わった地域や、奇妙な県境や飛び地などが今もって残されている。また江戸時代に未策定のまま残された国境は、そのまま県境未定地となり、その広さは日本の国土の4%にも達するという。

戊辰戦争や西南戦争で幕府軍に与したか、政府軍に与したかで県境の策定が意図的に組まれた逸話や、横浜市神奈川区や神戸市兵庫区のような県と市の逆転現象、富士山や無人島などの帰属を巡るこぼれ話など、マニアな私の好奇心をくすぐる内容であった。

『平成関東大震災』

福井晴敏『平成関東大震災:いつか来るとは知っていたが今日来るとは思わなかった』(講談社文庫 2010)を読む。
東京都心で震度6強の大地震が起きた際の被害想定を元に、東京都庁から墨田区京島まで徒歩で歩いて帰る中年サラリーマンの姿を描く。刊行されたのが、東日本大震災での東京都心における帰宅パニック発生以前であるが、実際に体験したかのような詳細で臨場感あふれる状況描写に驚く。途中、地震波や建築基準法などの解説にかなりの紙幅が用いられるが、現場で途方に暮れる一人の中年男の混乱や不安、苛立ちにまで踏み込んだ純粋な小説でもあった。