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『マスメディアの自由と責任』

清水英夫『マスメディアの自由と責任』(三省堂 1993)をパラパラと読む。
主に新聞や雑誌などの出版マスメディアにおける表現の自由をめぐる論考集である。取材・報道・出版の自由と相反するプライバシーや性表現の自己規制、検閲制度について論じられている。

本編はあまり面白くなかったが、1922年生まれの著者のジャーナリスト時代の経歴が興味深かった。著者は1947年に中央公論社に入社し、谷崎潤一郎の『細雪』の原稿の筆耕を担当することになる。その『細雪』であるが、戦時中は軍部から「この非常時に有閑小説を掲載するとは何事だ」とのお咎めを受け、雑誌『中央公論』が廃刊に追い込まれ、中断を余儀なくされた作品である。

当時は「表現の自由」を盛り込んだ新憲法の施行を目前にしていたが、まだGHQの支配下にあり、全ての雑誌がマッカーサー司令部管轄の民間情報局の検閲を受けることになっていた。著者自ら情報局に足を運び、掲載内容のお伺いを立てていたとのこと。

また、朝鮮戦争に伴うレッドパージを契機とした、経営サイドと組合が激しく対立した中公争議に巻き込まれ、著者は中央公論社をクビになり、河出書房が出資する近代思想社を結成する。その後、近代思想社は岩波書店に吸収されることになるが、著者だけが諸事情により採用されなかった。そこで著者は現在も「法律時報」や「法学セミナー」を刊行する日本評論社に入社する。日本評論社は現在学術系の雑誌を数多く刊行しているが、戦時中は左翼出版の一翼を担っていた。ちょうど著者が入社した頃に共産党六全協事件が起こり、徳田球一の論文を掲載したところ、GHQのマークが余計に厳しくなるといったエピソードまで紹介されている。

『環境ビジネス5つの誤解』

尾崎弘之『環境ビジネス5つの誤解』(日経プレミアシリーズ 2011)をパラパラと読む。
主に企業の経営陣を対象とした本で、バラ色で語られがちな環境ビジネスに参入する際の誤解や損益の見通しについて赤裸々に語る。環境ビジネスへの誤解として、著者は「クリーンエネルギーを増やせば増やすほどエコである」「電気自動車は異業種、中小・ ベンチャー企業を中心に短期間で成長する」「太陽光発電は『固定価格買取制度』(FIT)によって健全に成長した」「バイオ燃料は環境に優しいエネルギーである」「日本の技術力は、世界の水ビジネスをリードしている」の5つをあげる。それぞれ諸外国の失敗例や収支の悪化、ビジネスモデルとして成立していない状況などを丁寧に説明している。

一方で、「スモール・スマートシティ(環境配慮型の実験的都市)」については、環境ビジネスと都市機能の全てをひっくるめた巨大インフラとして、日本の輸出を支えるビジネスへと変貌する可能性があると論じる。

本書は東日本大震災の前に刊行された本で、原子力のコストを低く見積もっていたり、リチウムイオン電池の技術進展を見誤っていたりと、現状と合っていない点もあって読み飛ばすこととなった。

『天才』

石原慎太郎『天才』(幻冬舎 2016) を読む。
元東京都知事の石原氏が、かつての政敵であった田中角栄の自伝を一人称で綴る冒険作である。多分に石原慎太郎自身の政治観が滲み出ており、日中共同声明や独自の資源外交を展開した才気あふれる政治家田中角栄に対し、米国がロッキード事件を契機に潰しにかかったという流れとなっている。後書きの中で、著者は現在も米国の植民地状態となっている日本で、田中角栄という天才政治家の存在感を表したと述べている。

戦前の政治家になる前の少年、青年期の話は興味深かった。

『コンビニ店長』

日下忠『コンビニ店長:24時間営業中』(二見文庫 2017)を読む。
男性向けの官能小説で、コンビニのシーンからなんの脈絡もなく濡れ場の場面に突入する。徐々に盛り上がっていく過程がすっぽりと抜け落ちてクライマックスの描写だけが連続するので、ちょっと付いていけなかった。アダルトビデオを無理やりノベライズさせたらこんな感じだろうか。

『目で見る仏像・天』

田中義恭・星山晋也編著『目で見る仏像・天』(東京美術 1987)を読む。
「天」とは、そのほとんどが元来バラモン教等異教の神々であって、仏教に採り入れられて、仏法を守護する護法神とされたものである。これらの神々が天上界に住んでいるところから天の名称がつけられたと言われている。天の中には梵天、帝釈天、四天王などのようにインドにおいて早くから仏教に取り入れられたものも多い。

不殺生を旨とする元来の仏教とは異なり、金剛力士や四天王、毘沙門天、十二神将など、戦いの神が多いのが特徴である。また、鬼子母神や、毘沙門天の妃である吉祥天、梵天の妃ともされる弁才天など、女性を象徴した神も多い。さらには、象同士が抱き合った歓喜天や、恵比寿さまとしても知られる大黒天、閻魔王など、癖のある神が名を連ねる。