日別アーカイブ: 2025年12月21日

『米中戦争』

渡部悦和『米中戦争:そのとき日本は』(講談社現代新書,2016)を卒読する。
ちょうど今日の東京新聞朝刊に、米国のルビオ国務長官が「日本との強固な同盟関係を継続し、中国とも生産的な協力関係を築き続けることは可能だ」と述べ、日中関係の悪化に距離を置く姿勢を示したとの記事が載っていたので、米国は中国との対立をどのように考えているのかと思い手に取ってみた。

著者は東京大学を卒業後、陸上自衛隊に入隊し、陸上幕僚副長を経て東部方面総監を務めた軍事作戦の専門家である。習近平主席は、中国の国家主席に就任した際に、「米国と対等かそれ以上の覇権国家になること」、「広大な太平洋は二つの国にとって十分な空間がある」と宣言し、「陸を重んじ海を軽んじる伝統的な考え方を打ち破り、海や大洋を管理し、海洋の権利と利益を防護することに重点を置くべきである」と海軍重視の姿勢を打ち出している。そのため台湾や尖閣諸島に圧力をかけてきている。

細かい兵器の名称や説明は読み飛ばしたが、中国は東シナ海、台湾、南シナ海を含む第1列島線を直接支配下に置き、第2列島線まで中長距離ミサイルの射程に置く戦略をとっている。著者は米軍の東アジア戦略にうまく乗っかり、韓国やフィリピン、シンガポール、インドネシア、オーストラリアとの軍事連携をとり、潜水艦を活用した戦略を取るべきだと述べる。

そもそも中国には国家の軍隊も国民の軍隊も存在しない。人民解放軍は共産党中央軍事委員会が指揮権を一手に掌握する「私兵」である。だから天安門事件(1989)で、軍が共産党の命令によって民主化を求める多くの若者を殺害(中国の発表では319人、英国機密文書では1万人とも)したのである。

また、NATOは「米国を引き込み、ロシアを締め出し、ドイツを押さえ込む」ための組織であるとの指摘は興味深かった。米国はドイツをNATOに閉じ込めることで、米国の核の傘を提供し、ドイツの核武装を牽制してきた歴史がある。また、日米関係も同様で、日米は対等な軍事関係ではなく、日米同盟は日本を押さえ込む頸木の役割を果たしてきた。