高橋浩一郎『気象なんでも百科』(岩波ジュニア新書,1984)を読む。
著者は東京帝国大学を卒業後、気象庁長官まで務め、筑波大学でも教鞭をふるった一流の学者である。1960年代に比べ、地球温暖化ではなく、地球寒冷化が進んでいるとの研究もあった頃に刊行された本であるため、異常気象や旱魃などの説明は少ない。それでも、雲や雨、虹などの仕組みが見開き2ページで説明されており、中高生でも読みやすい体裁となっている。
参考になったところを抜書きしておきたい。
季節風がアジアではっきり現れ、アメリカなどではっきりしないのは、地形の影響と考えられる。アジアでは東西にのびるヒマラヤ山系があり、冬の寒気はこの山系の北側で囲まれるため、強い高気圧となる。しかし、アメリカには南北に走る大きな山脈はあるが、東西にのびるものはないので、寒気ができても南に方に流れてしまい、強い高気圧ができないためである。
低気圧や高気圧の速度は持続性があり、1〜2日は同じくらいの速度で移動する。一般に寒い季節は速く、平均時速40kmくらいで、暖かい季節はその半分くらいになる。冬の雨はすぐに止むが、夏の雨は長引くことでも分かる。また、日本を通る低気圧の経路も一定の傾向があり、陸地を避けつつ、海上を北東方向に進んでいくものが多い。
台風の語源はよく分かっていない。明治の末、第4代中央気象台長になった岡田武松によってとつけられた。もとは颱風と書き、中国の福建省で異常に強い風を「颱」といったことからきたとも言われ、台湾付近の強い風だからとも言われる。英語のtyphoonも台風の音からとられたものとも言われるが、古いギリシア語のティフォン(Typhon、怪物)からきたとも、アラビア語のツファン(Tufan、強風)からきたとも言われる。
11月3日の文化の日は、もともと明治天皇が生まれた明治節に由来するが、移動性高気圧に覆われ、その前後の天気と比較すると晴れることが多いことも関係しているようだ。
温度の単位は、ふつう水が凍る温度を0度、1気圧で水が沸騰する温度を100度とする摂氏温度が使われている。このほか人間の体温(摂氏38度)を100度、氷と塩を混ぜてえられる温度(摂氏-18度)を0度とした華氏温度も使われている。
農作物は普通10度以上になると成長をはじめ、温度が高いほど生育が早い。そこで日々の気温から10度を引き、その値がプラスの場合を加え合わせた値、有効積算温度がある一定以上に達しないと収穫はできない。これを度日(デグリーデー)という。有効積算温度は米で3200度日、トウモロコシで2300度日、麦では1600度日の程度である。つまり米は気温の高いところでないとできないし、麦はその半分の気温で収穫できるのである。
地表での圧力は1013ヘクトパスカル、つまり1平方メートルにつき、10.13トン、10300kgの重さがかかっているという計算である。以前は水銀を用いて、大気圧の力で水銀が真空の中を持ち上がる高さで気圧を表現していた。1984年以降、水銀由来のミリバールからヘクトパスカルに変更となっている。
流氷というと、平べったい板状の氷を思い浮かべるが、それは全く違う。海水が凍ると体積が膨張して密度が0.92くらいになるので、流氷は海に浮かぶことになる。しかし、海面上に見えているのは流氷の9%くらいであり、それよりはるかに大きい部分が海面下にある。1912年のイギリスのタイタニック号が北大西洋で沈没し、1513名が亡くなったのは、氷山に衝突したためであった。