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『部活魂!』

岩波書店編集部編『部活魂!』(岩波ジュニア新書 2009)を読む。
岩波書店が「私の学校の部活自慢!」というテーマで、全国から原稿を募集した中から、21の作品が選出され収録されている。合わせて俳優の六角精児さん、長嶋三奈さん、大八木淳史さん、早乙女愛さんが、同じく「部活」に関するエッセーを寄せている。

序文の中で、「夢、努力、熱血、勝負、喜び、涙、挫折、仲間、先輩、後輩、先生、ひたむきさ、悔しさ……、10代のさまざまな思いが込められた『部活魂』です」と述べられているが、100%その趣旨通りの内容となっている。どの作品も部活で成功した生徒が書いているので、よく言えば中高生の汗の結晶だが、悪く言えば、中小企業の社長の成功談を聞かされているような面映さを感じてしまう。

『地図を旅する』

堀淳一『地図を旅する:一枚の地図から広がるロマン』(創隆社 1991)を読む。
久しぶりに時間を忘れて読みふけった。元は1981年に刊行された本なので、共産圏の大縮尺の地図は手に入らないとか、ステレオ写真の作り方など、かなり古い情報も多いが、省略の多い地図からリアルな世界を想像する地図に魅力は、Googleマップやストリートビューが当たり前になった現在でも変わらない。

地図の場合は写真よりも現実とのギャップが大きいだけに、想像力を働かせる余地が大きいのが一つの面白さだし、そのためになおさら好奇心がそそられる、ということもある。時によっては、下手な写真にひきずられるよりは、地図の上で自由に想像力を働かせるほうが、よほど現地の雰囲気にピタリとしたイメージを描けるということも、またあるだろうね。今いったように、大事なのはこまかい事柄よりもむしろ全体的な、漠然と感じられる雰囲気なんだから、地図からの想像のほうがはるかに真実をつくることだってあるわけだ。

(中略)風景の味わいをただ受け身で発見するだけではなく、風景の中にひたりながらそれに積極的に働きかけて、自分なりの心象風景、つまりイメージの世界を創り出すたのしさーこれが旅の醍醐味だとおじさんは思っているんだ。

(中略)風景の中に没入し、それに働きかけて自分なりのイメージの世界を創りだすことは、地図と直接関係ないけれども、先入観念に邪魔されず風景をいわば「手づくり」することのできる場所をさがすためには地図が、そして地図の上でイマジネーションをはばたかせることが必要なのだから、やはり地図が土台になっているわけだ。

『日本の宇宙科学』

大林辰蔵監修『日本の宇宙科学:1952→2001』(東京書籍 1986)をパラパラと読む。
敗戦後一時期に中断したが、1955年に東大生産技術研究所が全長わずか23センチメートルのペンシルロケット実験を成功させたことを皮切りに、日本のロケット開発は始まっていく。そして、紆余曲折、試行錯誤を経て、日本が本格的に宇宙研究・進出に乗りだし、本書が刊行された1986年、ちょうど筑波万博が開催されていた当時の、太陽光発電衛星やスペースコロニーなどの壮大な計画まで話が進んでいく。

『大卒無業』

矢下茂雄『大卒無業:就職の壁を突破する本』(文藝春秋 2006)を読む。
リクルートで長年学生の就職サポートを務めてきた著者が、これから就活を迎える大学生の子を持つ父親に向けた就活のイロハと、子どもへの向き合い方や声の掛け方などについて、親身になって語る。2000年代半ばに大学生の子を持つ親というと団塊かそれより少し下の世代にあたり、好景気の当時では考えられない「就活」という言葉や、就職スケジュールから丁寧に説明されている。

また、子どもにアドバイスできるように、エントリーシートのポイントや、面接で試験官の印象に残る答え方などについても、「面達」張りに分かりやすくまとめられている。公務員試験の種別や、業界や業種別に仕事内容や向き不向き、今後の成長見込みなどが整理されており、できれば大学生の時に読みたかった本である。

『パラサイト社会のゆくえ』

山田昌弘『パラサイト社会のゆくえ:データで読み解く日本の家族』(ちくま新書 2004)を読む。
社会学の中心テーマである家族関係や労働、学校、年金などについてズバリ切り込んでいく。特に1998年という年が、日本社会が不安定化した節目の年だという意見が面白かった。数値例を挙げると、自殺者や青少年の凶悪犯罪、強制わいせつ認知件数、セクシャル・ハラスメント相談件数、児童虐待相談処理件数、「できちゃった婚」、「社会的ひきこもり」、「不登校」、子どもの勉強時間、フリーター就業人口などの数値が、1998年前後に軒並み望ましくない方向に振れていることが分かる。将来に対する希望や夢が持てなくなった日本社会に変貌した転換点が1998年であるという結論は、実感を持って理解できるところである。