投稿者「heavysnow」のアーカイブ

『文楽に連れてって!』

田中マリコ『文楽に連れてって!』(青弓社 2001)をパラパラと読む。
文楽とは人形浄瑠璃の一派で、大阪の竹本義太夫によって始められた大阪弁をもとにした古典芸能である。竹本義太夫の師匠が近松門左衛門であり、人形浄瑠璃の中心いってもよい。
最後に著者は専門家でもない自身が入門書をまとめた立ち位置について、最後に次のように語る。

古典芸能には、専門用語とか決まりごとに確固たるものがあります。文楽もきっちりした伝統と決まりごとがあります。(中略)けれど、完全にマスターしてから、という準備にとらわれていては、少しも前に進みません。ものごとは準備不足ではじめてもいいのだと、スリランカ仏教のえらいお坊さま、アルポムッレ・スマナサーラも寛容におっしゃっています。古典芸能は絶対間違えてはいけないというこの「権威主義」が若い人たちになんともいえない威圧感を与え、古典芸能からますます遠ざかるという悪循環に陥ってしまってるように思います。間違えても、デコボコでもいいから、古典芸能に関心をもとうではありませんか。私も知識もほとんどなくて、経験もただ見てただけという頼りないところからはじめました。それでもがむしゃらに書いてみたのは、古典芸能欠落世代でも日本の情緒とか、古典芸能の必要性を痛切に感じるからです。(中略)奥が深い古典芸能を完璧に理解するのには時間がかかることですが、とりあえず興味をもつこと。

新日本プロレスオーナー(現ブシロード代表取締役会長)の木谷高明氏の名言「すべてのジャンルはマニアが潰す」を思い出す。学校の授業も同じである。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」と、つねに初心者、初学者の視点を共有していきたい。

 

『解体ユーゴスラビア』

山崎佳代子『解体ユーゴスラビア』(朝日新聞社 1993)を少しだけ読む。
著者は1979年にユーゴスラビア(当時)に留学し、ユーゴスラビア文学を学び、その後もセルビアのベオグラードで生活する研究者である。その著者がユーゴスラビアの紛争を現地で暮らす人々の手紙や日記で綴っていく。

ユーゴスラビアは国土面積は日本の3分の2ほど、バルカン半島の西半に位置する南スラブ系の多い民族連邦国家であった。ちょうどローマカトリックとビザンチン帝国・コンスタンティノープルの中間にあり、カトリックと正教会の勢力がクロスする。また、オスマントルコの支配下にあったため、イスラム教信者も多い。

こうした歴史的背景があり、ユーゴスラビア時代から国境を無視して民族や宗教が入り混っていた。そこへ1991年にクロアチアとスロベニアが独立を宣言するところからユーゴスラビアの解体が始まっていく。

ざっくりまとめると、イタリアと国境を接しているスロベニアとクロアチアがまずドイツから承認をもらって一方的に独立を宣言する。この時、連邦維持を主張したのがセルビアとモンテネグロである。ボスニア・ヘルツェゴビナは中立であった。その隙を狙ってこっそりマケドニア(現北マケドニア)が独立をしてしまう。面倒だったのが、ボスニア・ヘルツェゴビナである。セルビア人とクロアチア人とイスラム教のボシュニャク人の3つの民族が混在しており、対立が表面化する。今でも国内はクロアチア人とボシュニャク人のボスニア・ヘルツェゴビナ連邦と、セルビア人のスカルプスカ共和国の2つの構成体からなる連邦国家である。
そうこうしているうちに、モンテネグロが選挙でセルビアとの連合から抜けて独立を果たす。最後に、セルビア内にあったアルバニア系のイスラム教徒のコソボ自治州がセルビアとの戦争を経て独立していく。

「エジプト オリーブ不作 冬場の気温上昇原因か」

本日の東京新聞朝刊に、地中海周辺の気候が変動し、農業に大きな影響を与えているとの記事が掲載されていた。地中海周辺は、大陸西側の中緯度に独特の気候地帯に位置し、夏は高温で乾燥し、冬に降水量が多い湿潤気候となる。そのため、夏は皮の厚いオリーブやレモン、オレンジなどが栽培されている。また、トマトやブドウなど乾燥に強い作物も有名である。一方冬は降水量が多いので、11月に種を蒔き、6月くらいに収穫される冬小麦が栽培されている。

この地中海式農業の公式が各地で崩れているという。地理教師泣かせの記事である。オリーブもブドウも小麦も低調とあっては、来年から授業の説明を変えなくてはならない。フランスなど夏場に多雨となるのであれば、小麦の輸出国から米の生産国に転換する日も近いのか?

『マンモスをたずねて』

井尻正二『マンモスをたずねて:科学者の夢』(ちくま少年図書館 1970)を読む。
これまたさくっと読み流すつもりだったが、かなり読み込んでしまった。シベリアで永久凍土から発見されたマンモスの骨の発掘調査の詳細や、自身も関わった北海道の白滝の旧石器時代の住居や野尻湖のナウマン象の化石の調査など、科学者ならではの活動の面白さを語る。
ちなみにナウマン象は日本を含む現在の温帯地域に生息し、マンモスは亜寒帯地域に生息していたが、進化的にはいとこ同士のような関係である。

北アルプスの穂高岳や南アルプスの仙丈岳、日高山脈の幌尻岳などのカール(圏谷)は、かつて日本に万年雪の山岳氷河があったことを示している。現在に日本では、降る雪の方が溶ける雪よりも多い雪線が標高4,300メートルを超えないといけないため、冬季にどんなに雪が降り積もっても万年雪とはならない。ところが、年平均が8〜10度も下がる氷期には、日本アルプスで雪線が2,700〜2,400メートル、日高山脈では1,600〜1,300メートルのところにあったという計算が成立しているので、現在カールが残っている理屈の説明になる。

また、陸地の周縁にはほとんど傾斜の無い水深200メートル程度の大陸棚がある。この大陸棚は氷期には陸地だったところで、波の動きで海岸が侵食されたものだと考えられている。ちょうど今から2万年前が第4氷期の一番寒い時期にあたり、海水面が一番下がっていたので、中〜高緯度の島は陸地続きとなり、旧石器時代のクロマニョン人やマンモス、ナウマン象なども移動したと想定される。

それにしても1970年刊行なので、ロシアの都市名がサンクトペテルブルクではなくレニングラードとなっているのが、昭和のレトロ感を誘う。

「気候変動が起こした干魃 生命の危機直面」

本日の東京新聞朝刊から。
マダガスカルで危機的な旱魃が続いているという。マダガスカル島はグリーンランド島、ニューギニア島、ボルネオ島に次ぎ、世界第4位の大きさで、日本の面積の1.5倍で587,041平方キロメートルとなっている。

マダガスカルは南回帰線が国土のちょうど真ん中を通っている国であり、東部の沿岸部は南東貿易風の影響を受け、湿った風が一年中吹き込むため、熱帯雨林気候となっている。またアフリカ大陸に面した西側は、日本と同様に季節風の影響を受ける。冬は高圧帯のアフリカ大陸から低圧帯のインド洋に向かって風が吹く。そのため5月から10月(南半球の冬)までは乾季となっている。

では、湿った風が吹けば雨が降るのかというと、そう単純ではない。