『マンモスをたずねて』

井尻正二『マンモスをたずねて:科学者の夢』(ちくま少年図書館 1970)を読む。
これまたさくっと読み流すつもりだったが、かなり読み込んでしまった。シベリアで永久凍土から発見されたマンモスの骨の発掘調査の詳細や、自身も関わった北海道の白滝の旧石器時代の住居や野尻湖のナウマン象の化石の調査など、科学者ならではの活動の面白さを語る。
ちなみにナウマン象は日本を含む現在の温帯地域に生息し、マンモスは亜寒帯地域に生息していたが、進化的にはいとこ同士のような関係である。

北アルプスの穂高岳や南アルプスの仙丈岳、日高山脈の幌尻岳などのカール(圏谷)は、かつて日本に万年雪の山岳氷河があったことを示している。現在に日本では、降る雪の方が溶ける雪よりも多い雪線が標高4,300メートルを超えないといけないため、冬季にどんなに雪が降り積もっても万年雪とはならない。ところが、年平均が8〜10度も下がる氷期には、日本アルプスで雪線が2,700〜2,400メートル、日高山脈では1,600〜1,300メートルのところにあったという計算が成立しているので、現在カールが残っている理屈の説明になる。

また、陸地の周縁にはほとんど傾斜の無い水深200メートル程度の大陸棚がある。この大陸棚は氷期には陸地だったところで、波の動きで海岸が侵食されたものだと考えられている。ちょうど今から2万年前が第4氷期の一番寒い時期にあたり、海水面が一番下がっていたので、中〜高緯度の島は陸地続きとなり、旧石器時代のクロマニョン人やマンモス、ナウマン象なども移動したと想定される。

それにしても1970年刊行なので、ロシアの都市名がサンクトペテルブルクではなくレニングラードとなっているのが、昭和のレトロ感を誘う。