『ユング心理学入門』

山根はるみ『ユング心理学入門』(ごまブックス 1997)を読む。
学術的な用語はほとんど用いずに全くの素人にもユングの説を分かりやすく解説している。ユング自身がマンダラを描き、チベット仏教の曼荼羅と酷似しているのに驚いたという点が興味深かった。

『造形集団 海洋堂の発想』

宮脇修一『造形集団 海洋堂の発想』(光文社新書 2002)を読む。
海洋堂チョコエッグのおまけで一躍有名になった模型メーカーである。模型メーカーというと一般に下請けの零細企業や外部の職人と契約し、自社のブランドで販売するといったイメージが強い。しかしこの海洋堂はアメリカのピクサー社のように、それぞれの専門に対するプライドを持った芸術家を抱える工房である。
芸術家の集まりなので、経営戦略などは二の次で、こだわりの仕事を優先にする会社である。手塚治虫のマンガやエヴァンゲリオンなどの二次元のキャラクターを三次元のモデルにするだけの、結局は模倣にすぎない模型の世界であるが、単に二次元キャラの寸法や配色をそのまま造形として立体化しても本物の質感は出ない。本物以上に本物らしくするために、コンマ数ミリ単位の微調整が必要なのである。パソコンでほとんどが作られてしまうアニメやマンガの世界と、コンピュータで細かいディテールまで削り出してしまう模型の世界を橋渡しするためには熟練と勘が冴えた職人の技が求められるという点が面白かった。

『国益の立場から』

渡部昇一『国益の立場から』(徳間書店 1996)を読む。
「従軍慰安婦」記述の虚飾や、占領軍による「東京裁判」史観の強制、日韓併合は世界の合意など小学生もびっくりの意見を展開し、朝日新聞や当時の社会党には「コリア」や「シナ」の工作員が紛れ込んでおり、日本の世論や政策を本国に都合のいいように誘導していると、革マル系全学連顔負けの謀略論を展開する。当時の住専に対する官僚批判や中国の帝国主義的な軍事再編などに対する非難には一顧の余地もあるが、肝心の「国益」なるものの正体は見えてこなかった。

『教育と教育政策』

宗像誠也『教育と教育政策』(岩波新書 1961)を読む。
東大教育学部の教授として、教育は人間の尊厳を確立することという一貫した信念のもとで教育行政学を確立した作者の著書であり、現在でも教育行政学のテキストとして用いられている。教育における憲法たる教育基本法の精神が、その下位法規である学校教育法施行令規則に法的根拠を置く学習指導要領で歪められてしまっている当時の現状を緻密に分析を加えている。その中でとりわけ教師の教育権についての分析が興味深かった。

教師の教育権は、教師が真理の代理者たることにもとづく、というほかないと考える。真理の代理者とは、真理を伝えるもの、真理を子どもの心に根づかせ、生かし、真理創造の力を子どもにもたせるもの、というような意味である。