長谷川眞理子『科学の目 科学のこころ』(岩波新書 1999)を読む。
ダーウィンについて少し書いてあったので手に取ってみた。著者は動物の行動生態学を専門としており、現在は総合研究大学院大学学長を務めている。執筆当時は専修大学法学部で一般教養科目を担当しており、本書も文系の学生向けに、生物学を中心に分かりやすい科学の入門エッセーとなっている。
米ソの軍拡競争から生物同士の競争について展開するくだりが面白かった。具体例に挙げられていたカッコウという鳥は、自分でヒナの世話をせず、ウグイスなどの多種の鳥の巣に卵を産み込み、その種に世話を任せる。そんなものを引き受けさせられたほうは困ったものなので、カッコウを追い払う。そこで、カッコウは、非常に巧妙に卵を産み込む手段を開発する。まず、宿主の鳥のいないときを見計らって、その鳥の卵を一つ放り出し、そこへ自分の卵をあっという間に産み付けるのである。
宿主の鳥の方も騙されてばかりではなく、カッコウの卵を見分けて放り出すこともある。しかし、カッコウの方もそれに対応して宿主の卵と酷似した卵を産むようになる。挙げ句の果てには生まれたカッコウのヒナの鳴き声も宿主の本来のヒナの一腹分、すなわち5羽か6羽の全部が一斉に餌ねだりをしている声にそっくりなのである。