福島章『マンガと日本人:“有害”コミック亡国論を斬る』(日本文芸社 1992)を読む。
執筆当時は上智大学に務め、犯罪心理学や精神鑑定などの著書も多い著者が、性的描写の多いマンガと少年の性犯罪の相関関係について、読者が飽きるまで分析を続ける。結論としてはアニメやビデオなども含めて性情報がオープンになればなるほど、性犯罪は減っていくという負の相関関係が見られるというものだ。性情報の規制をかけている当時の韓国で性犯罪の発生率が高く、デンマークの調査ではポルノグラフィを解禁と強姦事件の発生は全く無関係であった。
また、1990年代頃までは「漫画ばっかり読んでいないで勉強しろ」という言葉が当たり前のように流通していた。しかし、マンガを読む機会が多い青少年ほど活字に触れる機会が多いというデータも紹介されている。
著者は「有害」コミック規制運動に対して、真っ向論陣を張っている。
私は、精神科医として多くの性犯罪者、非行少年の精神鑑定を行った経験を持つが、犯罪・非行の原因はきわめて多元的であり、なにか一つの原因に帰することができる方が稀である。非行の原因は、家族的な背景、本人の資質やパーソナリティー、友人関係、価値観や意識、生活史の偶発的な出来事など、きわめて多次元的な要因によって規定されている。メディアとの接触だけで起こった非行というものを、私はまだ鑑定したことがない。
私の印象では、メディアの影響を強調するのは、取り締まり強化の大義名分を社会的に認知させるための、警察当局の意図的な演出や情報操作に、あまりにもナイーブなマスコミがおどらされた結果である。日本の警察は、戦前には国体の尊厳や護持という名目で、思想犯や政治犯の取り締まりなど、思想統制を行っていた。戦後は、思想の統制はできなくなったが、今度は性の領域で、「わいせつ」という概念を十分に利用して市民生活の私的領域に介入しようとしているのである。これは、警察官僚が伝統的に持つ本能的ともいえる情熱なのである。