日別アーカイブ: 2019年12月30日

『JOKER』

久しぶりに、春日部イオンまで映画を観に行った。自分のための映画を観るなんて何ヶ月ぶりであろうか。作品は、トッド・フィリップス脚本・監督、ホアキン・フェニックス主演『JOKER』(2019 米)である。
『バットマン』を観たことがなかったので、純粋にオリジナル・ストーリーとして画面に釘付けとなった。

日本でも最近話題になる「無敵の人(家族や仕事、財産など、失うものが何もないので、犯罪を犯して一般の人を巻き込むことにさほど抵抗を感じない人)」による殺害事件をテーマとしており、米国の分断された社会が露わになる。また、貧困や銃、統合失調症など、一筋縄では片付かない問題も呈され、究極の社会派映画ともなっている。

喜劇や妄想といった二面性のある要素に彩られているので、喜劇を通して米国の抱える格差を訴えた内容だとも、全てが主人公の妄想であったとも言える。こういう趣旨の映画だと断言できない。

『聖母マリア伝承』

中丸明『聖母マリア伝承』(文春新書 1999)をざっと読む。
著者はスペインに関するエッセーや評論を数多く出版している人物で、冷静な立場でキリスト教の聖母マリアに関する伝説やヨーロッパでの受け止め方について論じている。

キリスト教徒ではない者にとって、マリアという存在は三位一体の一角をなすとはいえ、イエスの母というだけで、マイナーな存在である。イエスをウルトラマンに例えるなら、マリアはほとんど物語に登場しないウルトラの母という立場でしかない。

しかし、プロテスタントが「聖母マリア」を認めない一方、ギリシア正教会では聖母マリアを中心に据えたイコンを崇敬するなど、キリスト教界でも論争がある。現在ではマリア論争はキリがないので、棚上げされているようである。

本論からは離れてしまうが、気になったこぼれ話を拾っておきたい。

オーストリアの女帝マリア・テレジアは、ひと腹で16人の子どもを産んでいるが、末娘がかのマリー・アントワネットである。執務に疲れた女帝が「ヨッコラショ」と肘掛け椅子にもたれたその途端、「ドッコイショ」っと椅子の上にマリーがころがり出てきたというエピソードは、あまりにも有名だ。

地中海のマルタ島は、使徒パウロが布教の途上、ローマの官憲に捕えられてローマへ護送される途中、嵐のために難破して、二週間の漂流ののち打ち上げられた島だが、パウロはここで三ヶ月牢屋に入れられ、その間ずっと祈りつづけた。このため、マルタ島はキリスト教徒の聖地になっている。

人間第一号なる者は、アダン(土塊)をこねくりまわして製造されたことから、「アダム」と命名された。(中略)こうして造られたイヴ(エバ)は、「いのち」というほどの意味である。

スペインは闘牛を国技とする国だが、リングをどよめかす「オーレ!」ole!という掛け声は、アラーAlaが転じたものである。

『消滅都市』

下田翔太原作、高橋慶執筆、toi8イラスト『消滅都市』(PHP研究所 2015)を読む。
スマートフォン用に配信されているゲームアプリの世界のノベライズである。登場人物について読者が分かっている前提で話が展開していくので、展開の省略が多すぎて、物語の世界観そのものが理解できなかった。

「ソマリアで爆弾テロ」

本日の東京新聞朝刊に、「アフリカの角」と呼ばれたアフリカ東部のソマリアの政情に関する記事が掲載されていた。ソマリアはアフガニスタンやイラク、シリアなどの中東諸国とよく似ている。両国とも、19世紀から20世紀前半にかけては、ヨーロッパ列強の帝国のご都合主義により、宗教や民族を無視して勝手に国境が引かれ、冷戦の時には社会主義で旧ソ連の影響を受ける。そして、冷戦後は国境も経済もボロボロになったところに、部族同士の争いやイスラム原理主義が台頭し、さらに米国のお節介外交により、米国の武器を国内に多数滞留し、国内政治がぐちゃぐちゃにされてしまう。

ソマリア内戦に介入した米軍を描いた『ブラックホーク・ダウン』(2001 米)という映画がある。アカデミー賞も受賞したので、ネットで検索すれば出てくる。冒頭、国連の援助物資すら安全に届けられないシーンが今も印象に残っている。

2009年から現在まで、日本はソマリア海沖の海賊対策として海上自衛隊を派遣している。スエズ運河や紅海を航行する船の安全を守ろうと、ソマリアに隣接するジブチを拠点に活動を継続している。これはソマリア政府の要請による国連安保理決議に基づくものだが、安保理では海賊を押さえ込むために、海上だけでなく、陸上や空の監視も決めており、自衛隊が巻き込まれる可能性は否定できない。

宗教や部族が絡んだ内戦は、他国が安易に関わると余計に問題を悪化させる。日本政府は自衛隊の活動を、航行の安全確保を目指す国連平和維持活動に限定するべきである。

「国連制裁の船 拘留せず」

本日の東京新聞朝刊に、国連安保理で制裁されている北朝鮮の石炭密輸に関する記事が掲載されていた。詳細は記事に譲るが、北朝鮮国内には、石炭だけでなく、鉄鉱石や燐灰石、マグネサイト、ウランなど、200種類を超える有用鉱物が確認されている。また、近年とみに価値が高まっている希少金属のタングステン、ニッケル、モリブデン、マンガン、コバルト、チタニウムなども豊富との情報がある。こうした鉱物資源が北朝鮮の核・ミサイル開発の資金源となっているとのことで、国連決議が発動されている。

地理的に言えば、朝鮮半島は安定陸塊に属している。安定陸塊とはまだ植物が地上に繁茂する前の先カンブリア時代からほとんど変わらない地域である。そのため鉱産資源が発掘しやすい。石炭は植物由来のため、植物が地上で栄枯盛衰を繰り返した6億年前から2億5千年前に造山運動で形成された古期造山帯に多く見られる。北朝鮮は安定陸塊に位置しながら、石炭が偏在する地域となっている。

北緯38度線を挟んだ一方の韓国は、同じ安定陸塊にありながら、日本と同様にほとんど鉱産資源に恵まれない。そのため、原材料を輸入し、製品として輸出する加工貿易を産業の中心としてきた。

資源に恵まれた国であるがゆえに、私腹を肥した独裁政権が蔓延る例は、中東やアフリカ諸国でも散見される。生まれつきの財産や身分、美貌に恵まれても必ずしも成功しない人間に擬えることができるだろうか。