中丸明『聖母マリア伝承』(文春新書 1999)をざっと読む。
著者はスペインに関するエッセーや評論を数多く出版している人物で、冷静な立場でキリスト教の聖母マリアに関する伝説やヨーロッパでの受け止め方について論じている。
キリスト教徒ではない者にとって、マリアという存在は三位一体の一角をなすとはいえ、イエスの母というだけで、マイナーな存在である。イエスをウルトラマンに例えるなら、マリアはほとんど物語に登場しないウルトラの母という立場でしかない。
しかし、プロテスタントが「聖母マリア」を認めない一方、ギリシア正教会では聖母マリアを中心に据えたイコンを崇敬するなど、キリスト教界でも論争がある。現在ではマリア論争はキリがないので、棚上げされているようである。
本論からは離れてしまうが、気になったこぼれ話を拾っておきたい。
オーストリアの女帝マリア・テレジアは、ひと腹で16人の子どもを産んでいるが、末娘がかのマリー・アントワネットである。執務に疲れた女帝が「ヨッコラショ」と肘掛け椅子にもたれたその途端、「ドッコイショ」っと椅子の上にマリーがころがり出てきたというエピソードは、あまりにも有名だ。
地中海のマルタ島は、使徒パウロが布教の途上、ローマの官憲に捕えられてローマへ護送される途中、嵐のために難破して、二週間の漂流ののち打ち上げられた島だが、パウロはここで三ヶ月牢屋に入れられ、その間ずっと祈りつづけた。このため、マルタ島はキリスト教徒の聖地になっている。
人間第一号なる者は、アダン(土塊)をこねくりまわして製造されたことから、「アダム」と命名された。(中略)こうして造られたイヴ(エバ)は、「いのち」というほどの意味である。
スペインは闘牛を国技とする国だが、リングをどよめかす「オーレ!」ole!という掛け声は、アラーAlaが転じたものである。