月別アーカイブ: 2019年12月

『竹人形殺人事件』

内田康夫『竹人形殺人事件』(角川文庫 1997)を読む。
1992年に刊行された本の文庫化である。バブル真っ只中で開発の波が押し寄せる福井県を舞台に、水上勉が小説で描いた「越前竹人形」の伝統と、観光客を呼び寄せるための開発に伴う汚職が複雑に絡み合う。

作者のミステリー量産期に書かれた作品で、事件のカラクリの「フォーマット」に地名とモチーフを抛り込んだだけの、荒削りな内容となっている。

冬休みの気分転換にちょうど良い作品であった。

『樹木ハカセになろう』

石井誠治『樹木ハカセになろう』(岩波ジュニア新書 2011)を読む。
樹木医や森林インストラクターを務める著者が、日本人に馴染み深いイチョウやケヤキ、スギなどの生態や生育環境について分かりやすく説明されている。光合成や道管・師管など生物の勉強の簡単な復習ができた。

「光合成」をおこなっている器官が、このクロロフィルがたくさんつめこまれた葉緑体です。クロロフィルは光を吸収すると、そのエネルギーを使って水を分解し、酸素をつくります。また、吸収したエネルギーを別の物質に与え、こんどは葉が気孔から吸収した二酸化炭素を使って、ブドウ糖をつくります。
ブドウ糖は炭素、酸素、水素の三種類の元素でできていて、これらが植物の体にもっともたくさん含まれています。しかしそのほかにも窒素、リン、カリウム、カルシウムなど十数種類の元素が必要なのです。このうち、窒素、リン、カリウムの三つの元素は、植物が大量に必要であるにもかかわらず、土の中に少ないため、根からとりいれることがむずかしく、作物をつくるときには肥料として与える必要があり、肥料の三要素と呼ばれています。窒素は大気の80%をしめているほど、気体としては大量にあるのですが、植物はこれを直接利用することはできないのです。

トクサやスギナが、直径1メートル、高さ40メートルになった姿を想像できますか。いまから3億年前の、トクサやスギナの祖先の姿です。湿地に大森林をつくっていました。幹は1メートルあっても、空洞のため、もろく崩れやすかったでしょう。倒れて折り重なり、長い年月をかけて上からの圧力を受けて変質していきます。有機物は炭素を中心にほかの原子が結合していますから、熱や圧力でほかの原子が離れてしまい、炭素のかたまりとして地層に残ったのが石炭です。

「昆虫食 お菓子で気軽に」

本日の東京新聞夕刊に、群馬県の高崎経済大学の学生が昆虫食の開発を手掛ける企業を立ち上げたとの記事が掲載されていた。
タイ北部やラオスでは、すでに昆虫食が庶民に必要な栄養素を含んだ食品として普及している。いよいよ日本でも昆虫食が環境問題と相まって、注目されていくのであろう。もともと日本で高度経済成長まではイナゴや蜂、蚕のサナギなどを食べる習慣が残っていた。しかし、食の欧米化に伴い廃れていった歴史がある。

先ほど、牛肉は生産するのに環境負荷が大きいということを書いた。そこで、ある昆虫食を販売する企業のサイトを見たところ、タンパク質1kgを生産するのに、鶏は300gの温室効果ガスを排出する。豚は1,130g、牛に至っては2,850gものガスを排出とある。しかし、コオロギ はわずか1gである。

日本ではコオロギ というと、あまり良いイメージがない。しかし、人口爆発によりタンパク質不足が叫ばれる中、日本の高い食料技術を活用し、官民一体での取り組みが求められるのでは。

「細胞から培養 牛ステーキいかが」

本日の東京新聞夕刊に、イスラエルの企業が牛肉を細胞培養から作ることに成功し、数年後の商品化に向けて研究開発を進めているとの記事が掲載されていた。細胞から培養された肉というと、何やら手塚治虫の漫画のワンシーンを思い出すが、意外とすんなり受け入れられるような気がする。

農林水産省発行のパンフレットによると、牛肉1kgを生産するのに穀物は11kg必要となる。豚肉1kgに対し穀物7kg、鶏肉は同4kg、鶏卵は同3kgの穀物が必要とされる。先進国の金持ちが牛肉を味わう光景は、開発途上国で飢えに苦しむ子どもの姿と裏表の関係である。牛肉は環境負荷が大きく、世界でも一部の人しか口にできないものだという点は忘れてはならない。日米貿易協定により、今後ますます安価な牛肉が輸入されるが、賢い消費者は生産過程にも注目しておきたい。

独立行政法人農畜産業振興機構のホームページによると、2017年現在、米国には乳用や繁殖用も含め9358万5000頭の牛がおり、3年連続で増加している。特にテキサス州では前年比4.2%増の1230万頭を数える。こうした莫大な数の牛が吐き出すメタンガスがもたらす温暖化への影響は計り知れない。

『台湾論』

小林よしのり『台湾論』(小学館 2000)を読む。
漫画を読み慣れていないので、何日かかけて読み終えた。台湾独立派を戦前の日本の潔い精神が宿っていると褒め称える。一方、昨今の日本の政治家やサヨク連中は大陸側に阿るばかりで、心根が腐っていると断じる。論理が飛躍しているのだが、漫画のキャラクターで穴埋めされ、何となく同感してしまう。漫画の功罪を感じた。

台湾の人たちのアイデンティティや中国からわずか2キロしか離れていない金門島、蒋介石の人柄など、参考になるところは多かった。