日別アーカイブ: 2017年9月3日

『仮面の家』

横川和夫『仮面の家:先生夫婦はなぜ息子を殺したのか』(共同通信社 1993)を読む。
本棚の整理のつもりで、軽く読んで捨てるつもりだったが、じっくりと最後まで読んでしまった。
1992年6月に埼玉県浦和市で起きた大学を中退し家庭内暴力を振るっていた息子を両親が殺害したという事件のレポートである。浦和東、浦和西、蕨高校で教鞭をとり、部活動や教材研究に追われ、生涯一教師を実践した父親が愛する息子を殺害するに至った心境を察するに余りあるものがある。

前半は東大出身で埼玉県立高校において国語を教える父親や母親について、また被害に逢った長男の生育歴について詳細にまとめられている。後半は浦和の事件を担当した精神科医のコメントや、神奈川県横浜市で金属バットで母親に傷害を負わせた事件で家族療法にあたったカウンセラーの視点で事件の顛末が語られる。Amazonのレビューにもあったが、後半の診療所の宣伝のようなくだりや画一教育に問題の核心を求めようとする著者の分析がなければ良い本だったのにと思う。

『EQ〜こころの知能指数』

ダニエル・ゴールマン『EQ〜こころの知能指数』(講談社 1996)を軽く読む。
一時期話題になった本である。知能テストで測定されるIQと別の、「こころ知性指数」に関する本である。「こころの知能指数」すなわちEQとは「自分の本当の気持ちを自覚し尊重して、心から納得できる決断を下す能力。衝動を自制し、不安や怒りのようなストレスのもとになる感情を制御する能力。目標の追求に挫折したときでも楽観を捨てず、自分自身を励ます能力。他人の気持ちを感じとる共感能力。集団の中で調和を保ち、協力しあう社会的能力」と定義される頭の良さである。

IQよりもEQが高い方が、これからの多様な社会の中で生き抜くことができ、幸せな人生を送ることができると著者は断じる。米国での実例も多数紹介されているが、あまり興味を引く話題ではなかった。というよりもこうしたEQなるものは日本の中学高校などの運動部の「部活動」で既に実践されていることである。部活動では勝ち負け以上の精神的成長が求められ、セルフコントロールやアンガーマネージメントを通して、切磋琢磨して目標に向かい、協調奉仕の精神でチーム力を高めていくことが求められる。著者は人格的知性(EQ)について次のように分類しているが、まさに日本の部活動の顧問が口にするセリフそのままである。

  1. 自分自身の情動を知る。
    →自分が何をどう感じているのか把握すること。
  2. 感情を制御する。
    →不安や憂鬱、苛立ちをふりはらう能力が必要である。
  3. 自分を動機づける。
    →目標達成に向かって自分の気持ちを奮い立たせる能力は、何かに集中したり何かを習得したり創造したりする上で不可欠である。
  4. 他人の感情を認識する。
    →共感能力に優れている人は、他人の欲求を表わす社会的信号を敏感に受け止めることができる。
  5. 人間関係をうまく処理する。
    →人気やリーダーシップ、調和のとれた人間関係を支える基礎となる。