月別アーカイブ: 2017年9月

『現代変革の理論』『戦後労働運動への逆照射』

本棚を整理しようと、古めかしい本に目を通してみた。

一冊めは、石堂清倫『現代変革の理論:叢書 戦後資本主義の分析』(青木書店 1962)である。
金沢の第四高校時代に中野重治と出会い、東京帝国大学時代に学生運動団体の新人会で共に活動した人物である。
学生時代に卒論をまとめる際に、インタビューしてみてはと声をかけられたことがあり連絡を取ったのかどうか記憶が定かではないが。確か体調不良ということで沙汰止みとなってしまった。
ソ連共産党第20回大会の席上で、フルシチョフがスターリンを批判したことを受け、東ヨーロッパやアフリカ、アジアなどの国が、様々場面で新しい社会主義のあり方の模索を始めた背景を分析している。レーニンや帝国主義、コミンテルンなど歴史の解説書を読んでいるような内容であり、酔っ払った頭にはほとんど内容が入ってこなかった。

もう一冊めは、中島誠『戦後労働運動への逆照射』(農山漁村文化協会 1985)である。
国労や総評の活動を総括し、かなり辛らつな批判を加えている。
中島氏は「あとがき」の中で次のように述べる。

 労組とは戦後民主主義が生んだものであるが、40年近く経って、当の民主主義によって崩壊した、というやや皮肉で悲しいものである。

戦後の民主主義は、70年代以後の過剰生産経済不況を招来したとともに、その不況に、生かされも殺されもせぬ程度の生活の豊かさを生み出した。このように中途半端な生活の向上と、生産の飛躍的向上の落差は、日本を経済大国というよりも輸出大国へと仕上げさせた。

輸出大国ということは、カネが万事を解決するという国家の社会である。戦後の民主主義は、生活の中身を腐食させ、主権在民の生活活力が、これ以上利用価値なしとみるや、国家は、民主主義そのものの無効性を宣言し始めた。戦後民主主義が、アメリカのニューディールとイギリスの建て前国会主義を見本にしたことは誰でも知っていることだが、その中へ技術論が参入するや、労働組合が真っ先に技術革新のベースに巻き込まれてしまった。行革とは資本と国家による一種の技術革新といえる。

 

 

 

 国家の意志と資本の戦略とが、日本の場合アメリカのように乖離し切れていない。多国籍企業や国際金融への参入に、まだまだ日本の育成の

 

 

 

 

70年代末からの不況対策と労働運動対策とは、政と使

『仮面の家』

横川和夫『仮面の家:先生夫婦はなぜ息子を殺したのか』(共同通信社 1993)を読む。
本棚の整理のつもりで、軽く読んで捨てるつもりだったが、じっくりと最後まで読んでしまった。
1992年6月に埼玉県浦和市で起きた大学を中退し家庭内暴力を振るっていた息子を両親が殺害したという事件のレポートである。浦和東、浦和西、蕨高校で教鞭をとり、部活動や教材研究に追われ、生涯一教師を実践した父親が愛する息子を殺害するに至った心境を察するに余りあるものがある。

前半は東大出身で埼玉県立高校において国語を教える父親や母親について、また被害に逢った長男の生育歴について詳細にまとめられている。後半は浦和の事件を担当した精神科医のコメントや、神奈川県横浜市で金属バットで母親に傷害を負わせた事件で家族療法にあたったカウンセラーの視点で事件の顛末が語られる。Amazonのレビューにもあったが、後半の診療所の宣伝のようなくだりや画一教育に問題の核心を求めようとする著者の分析がなければ良い本だったのにと思う。

『EQ〜こころの知能指数』

ダニエル・ゴールマン『EQ〜こころの知能指数』(講談社 1996)を軽く読む。
一時期話題になった本である。知能テストで測定されるIQと別の、「こころ知性指数」に関する本である。「こころの知能指数」すなわちEQとは「自分の本当の気持ちを自覚し尊重して、心から納得できる決断を下す能力。衝動を自制し、不安や怒りのようなストレスのもとになる感情を制御する能力。目標の追求に挫折したときでも楽観を捨てず、自分自身を励ます能力。他人の気持ちを感じとる共感能力。集団の中で調和を保ち、協力しあう社会的能力」と定義される頭の良さである。

IQよりもEQが高い方が、これからの多様な社会の中で生き抜くことができ、幸せな人生を送ることができると著者は断じる。米国での実例も多数紹介されているが、あまり興味を引く話題ではなかった。というよりもこうしたEQなるものは日本の中学高校などの運動部の「部活動」で既に実践されていることである。部活動では勝ち負け以上の精神的成長が求められ、セルフコントロールやアンガーマネージメントを通して、切磋琢磨して目標に向かい、協調奉仕の精神でチーム力を高めていくことが求められる。著者は人格的知性(EQ)について次のように分類しているが、まさに日本の部活動の顧問が口にするセリフそのままである。

  1. 自分自身の情動を知る。
    →自分が何をどう感じているのか把握すること。
  2. 感情を制御する。
    →不安や憂鬱、苛立ちをふりはらう能力が必要である。
  3. 自分を動機づける。
    →目標達成に向かって自分の気持ちを奮い立たせる能力は、何かに集中したり何かを習得したり創造したりする上で不可欠である。
  4. 他人の感情を認識する。
    →共感能力に優れている人は、他人の欲求を表わす社会的信号を敏感に受け止めることができる。
  5. 人間関係をうまく処理する。
    →人気やリーダーシップ、調和のとれた人間関係を支える基礎となる。

『佐多稲子集』

佐多稲子『佐多稲子集』(新潮社 1961)を手に取ってみた。
作者が24歳の時に書いた処女作小説『キャラメル工場から』(1928)だけ読んでみた。小学校5年生の時に貧窮のどん底に落ち、向島から神田まで通ったキャラメル工場での実際の体験がほぼそのまま小説となっている。
他の作品には目を通さなかったのだが、解説や年譜が興味深かった。彼女は二十歳で結婚しているのだが、結婚生活は惨憺たるもので自殺未遂を繰り返している。そして、芥川龍之介に自殺の経験を訊ねられている。芥川自殺の3日前である。その後エンゲルスやレーニンの著作を読み、窪川鶴次郎や中野重治、堀辰雄、壺井栄中条(宮本)百合子たちと作品を発表するようになった。まさに、芥川の自殺を象徴するようなエピソードである。