月別アーカイブ: 2013年7月

『伊勢・志摩殺人街道』

山口香『伊勢・志摩殺人街道』(廣済堂文庫 2002)を読む。
東京での電車に揺られる日常生活を抜け出し、恋人関係にある美人秘書とともに観光地を回るという、東京圏に住むおじさんにうってつけの内容となっている。
主人公たちの推定通りに話が展開していき、観光地の紹介を交えながら、途中お色気シーンもあるという2時間ドラマの台本のようである。途中で編集方針が変わったのだろうか、結局犯人もつかまらないまま、残り10ページで無理矢理終わらせたような中途半端な内容となっている。

『飛べ!フェニックス』

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地上波で放映された、ロバート・アルドリッチ監督、ジェームズ・スチュワート主演『飛べ!フェニックス』(1965 米)を観た。
砂漠のど真ん中で墜落した飛行機に乗っていた男たちの決死の脱出劇である。本編145分の映画を2時間枠で放映しているので、50分以上はカットされている計算だ。そのためか、砂漠に取り残される恐怖や仲間内の信頼が崩れていく過程などが省略されて、淡々と話だけが展開していった。スクリーンでノーカットであれば楽しめる作品であっただろう。

『伊勢路殺人事件』

西村京太郎『伊勢路殺人事件』(徳間文庫 2010)を読む。
来月に伊勢・熊野へのドライブ旅を予定しているので、伊勢神宮や熊野大社に関係する本をたくさん購入した。その中の1冊である。
おなじみの十津川警部と亀井警部のコンビシリーズである。今年2013年に予定されている伊勢神宮の式年遷宮への寄付金にまつわる殺人事件ミステリーである。西村氏の作品の特徴なのか、現場捜査や聞き込みで棚からぼた餅のごとく、都合良く情報や手がかりが出てきて、そこから気ままに推測した通りに物語が進行していってしまう。ちょうど20年以上前のファミコン時代の「ドラゴンクエスト」や「ファイナルファンジー」などのロールプレイングゲームで遊んでいるような感覚である。そして、あれよあれよという間に、事件が解決してしまう。テンポが良いといった方がいいのか、ご都合主義といっていいのか。
ちょうど今日の東京新聞夕刊に式年遷宮の関連行事である「お白石持(しらいしもち)行事」の記事が掲載されたばかりであったので、作品の現実感を味わうことができた。また、読みながらスマホのグーグルマップで内宮の位置を確認できたり、式年遷宮についての簡単な情報が得られたりしたので面白かった。

〈参考〉
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→「伊勢神宮式年遷宮広報本部 公式ウェブサイト」

『江原啓之 神紀行1』

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江原啓之『江原啓之 神紀行:伊勢・熊野・奈良』(マガジンハウス 2005)を読む。
「スピリチュアリスト」と称する著者が、伊勢・熊野・奈良のパワースポットとなっている神社を訪れるという旅紀行である。一般の雑誌に掲載されていたものなので、ホテルやおいしいお店の情報もあり、感度の高い女性向けの本となっている。
霊能力を携えた著者のパワーを匂わすような記述もあったが、いたずらにオカルトに走らず、普通の旅情報誌として読むことができた。

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→ 江原啓之公式サイト

『ハリガネムシ』

第129回芥川賞受賞作、吉村萬壱『ハリガネムシ』(文藝春秋 2003)を読む。
最初は社会的には底辺に位置する風俗嬢と「倫理」を受け持つ高校教師の破天荒な恋愛物語として展開されていく。格差を乗り越えた恋愛を描いた森鴎外の『舞姫』の現代版かと思いながら気楽な気持ちで読み進めていった。しかし、後半に入ってから凄惨な暴力シーンや異常な性愛シーンが続く内容に転じていく。女性のリストカットの傷跡に指を突っ込みながらの自涜や、扼殺しようとした男の股間に顔を埋める場面などを読むと、芸術と称していいいのか、単なる猥褻な三文小説と切り捨てていいのか分からなくなってしまう。しかし、最後の工事現場での集団暴行の場面では、主人公自身に内在している弱者への虐待願望と、若者に集団でリンチを受ける際の恐怖感が、読者の胸元にぐーっと迫ってくるような感覚に包まれる。
読み終えた後には、ふーっと大きく息を吐いてしまった。一つの作品としては読後感のよろしくないものであったが、同時に作者の感性の鋭さを充分に感じさせるものであった。