『ハリガネムシ』

第129回芥川賞受賞作、吉村萬壱『ハリガネムシ』(文藝春秋 2003)を読む。
最初は社会的には底辺に位置する風俗嬢と「倫理」を受け持つ高校教師の破天荒な恋愛物語として展開されていく。格差を乗り越えた恋愛を描いた森鴎外の『舞姫』の現代版かと思いながら気楽な気持ちで読み進めていった。しかし、後半に入ってから凄惨な暴力シーンや異常な性愛シーンが続く内容に転じていく。女性のリストカットの傷跡に指を突っ込みながらの自涜や、扼殺しようとした男の股間に顔を埋める場面などを読むと、芸術と称していいいのか、単なる猥褻な三文小説と切り捨てていいのか分からなくなってしまう。しかし、最後の工事現場での集団暴行の場面では、主人公自身に内在している弱者への虐待願望と、若者に集団でリンチを受ける際の恐怖感が、読者の胸元にぐーっと迫ってくるような感覚に包まれる。
読み終えた後には、ふーっと大きく息を吐いてしまった。一つの作品としては読後感のよろしくないものであったが、同時に作者の感性の鋭さを充分に感じさせるものであった。

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