月別アーカイブ: 2005年11月

〈社会保障論2〉

(a)労災保険法の給付は,労働者が業務中,もしくは通勤途中に生じた負傷・疾病・障害または死亡が,業務遂行中に,かつ,業務に起因して発生したものであると認められたときのみ与えられる。その「業務上」の概念は,法律では明記されておらず,行政解釈に依拠する点が大きい。
 ア)のように,勤務中に生じた災害については業務上と認められ,給付の対象である。また,イ)の場合においても,労働者が使用者の施設管理下にある限り,なお使用者の支配下にあるものとして業務遂行中と認められる。ただし,発生した災害は原則として業務外とされる。
 出張のように労働者が用務について包括的に使用者に対し責任を負っていると考えられる場合は,出張過程に全般において使用者の支配下にあるものとして業務上のものと判断される。ただし,ウ)のように,出張の通常範囲内の私的行為(休憩や飲食等)を逸脱する場合は業務外とされる。
 労災法7条2項で「通勤とは,労働者が,就業に関し,住居と就業の場所との間を,合理的な経路及び方法により往復すること」と定められており,エ)のケースは業務上とされる。しかし,7条3項では「労働者が,前項の往復経路を逸脱,中断した場合においては,通勤としない。ただし,日常生活上必要な行為である場合は,この限りでない」とあり,オ)のケースは業務外と判断される。

(b)業務災害に関する保険給付は以下の7種類である。通勤災害の場合も業務災害の場合に準じた保護が与えられるが,使用者の労災補償責任として行われるものでないため,「補償」という文字が削られている。
療養補償給付:働いている人が業務上の災害でけがや病気になったとき,退職後も含めて療養を要する全期間,指定病院で治療を受けられる。
休業補償給付:業務上のけがや病気で休んで賃金が受けられない時,休業1日につき給付基礎日額の60%の給付を受けられる。
傷病補償年金:業務上のけがや病気が1年半たっても治らず,かつその傷病により,重度の障害状態になったとき,その傷病の程度に応じて給付を受けられる。
障害補償給付:業務上のけがや病気が治ったものの,身体に重度ないし中程度の障害が残ったとき,その障害の程度によって年金か一時金を受けられる。
介護補償給付:業務上のけがや病気により重度の障害状態にあり介護を必要とするとき,支給される。民間の有料の介護サービスなどや親族,友人,知人により現に介護を受けていることも受給の要件となる。
遺族補償給付:業務上のけがや病気により死亡したとき,給付を受けられる。遺族の条件によって,年金か一時金に分かれる。
葬祭料:業務上の災害により死亡した労働者の葬祭に際して,葬祭料が支給される。

参考文献
安枝英訷・西村健一郎『労働法〔改訂版〕』有斐閣,1990年

〈社会福祉原論2〉

 近年,社会福祉が計画的に推進されている。例えば1990年の「老人福祉法等の一部を改正する法律」により都道府県および市町村に老人福祉保健計画の策定が義務づけられている。また,「介護保険法」においては市町村に介護保険事業計画が,さらに「社会福祉法」の改正に伴って都道府県に地域福祉支援計画の策定が義務づけられている。地方分権の流れに伴い,地方・地域レベルで責任ある財政支出の裏付けとなる計画作成が求められている。
 これらの地方の福祉計画の基本となっている国レベルの主な計画として「ゴールドプラン21」「子ども・子育て応援プラン」「新障害者プラン」の3つが挙げられる。

 「ゴールドプラン21」は,2000年に作成され高齢者福祉全般の枠組みを決めたものである。高齢者が健康で生きがいをもって社会参加できる環境づくり,在宅福祉を基本とし介護サービスの量と質の両面にわたる整備と高齢者の尊厳の確保と自立支援,高齢者の生活全般を支援していくための,住民が相互に支え合う地域社会の形成,「利用者本位」の仕組みを基本とした利用者から信頼される介護サービスの確立の4つを基本目標としている。

 「子ども・子育て応援プラン」は2004年に作成され,少子化のみならず,若者が安心と喜びをもって子育てにあたっていくことを社会全体で応援する仕組みを作ろうとするものである。若者の自立とたくましい子どもの育ち,仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し,生命の大切さ,家庭の役割等についての理解,子育ての新たな支え合いと連帯の4つを基本目標として掲げている。若者の就労意識の確立や子どもの体験活動に始まり,育児休業制度,男性の子育て参加,子育てがしやすいワークシェアリング,就学前の教育・保育の充実など厚労省,文科省の省庁の垣根を完全に越えた施策が展開されている。

 「新障害者プラン」はライフステージの全ての段階において全人間的復権を目指すリハビリテーションの理念と,障害者が障害のない者と同等に生活し,活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念の実現に向けて,2002年に作成された。社会参加する力の向上,地域基盤の整備,地域での共生,アジア太平洋地域における協力の強化,国民理解の向上,教育機関との一貫した相談支援体制の整備,雇用・就業の確保の7つの基本目標を掲げている。

 これらの計画は高齢者,障害者,育児といった自己責任のみに委ねることが難しい問題に関して,国レベルで自己実現と社会的公正のバランスが取れた社会形成に向け,数値目標を掲げ行動を期すものである。しかし,近年の財政難から計画の達成が先延ばしになっている。数値を挙げたにも関わらず,計画自体が流れては意味をなさない。国家全体のグランドデザインであるが,国民一人一人がそれぞれの階層において実現を目指さねばならないものである。

 参考文献
 一番ヶ瀬康子監『教科書社会福祉』一橋出版,1997年
 西村昇編『社会福祉概論』中央法規,2001年

〈社会福祉援助技術論2〉

 小集団活動として,小・中学校の学級クラスをとりあげて見たい。自由選択科目の導入や単位制による授業選択,さらに,固定化されたクラス編成が人間関係にゆがみを生じさせいじめの原因となっているなど様々な要因によって,昔ながらの学級がどんどん様変わりをしている。クラス活動の意義が問われることなく,「一人一人の教育」の美名のもとに学校の基礎集団であるクラスが破壊されているのが実情だ。

 そもそも学校のおける学級は,自分の周りに同様の作業を行なう人がいるだけで,作業量が増大する「社会的促進」が得られるという心理学者オルポートの分析に依拠している。それぞれが別の課題を行なうのではなく,皆が一斉に同じ作業をし,それを相互に認識し合う関係が作業の効率を高めるというのだ。

 大正八大自由教育の一人である手塚岸衛は,それまでの「教師と生徒」という縦の関係だけでなく,生徒同士の横の関係に注目した人物である。彼は,著書『自由教育論」の中で,「学級は男女別,児童は40人とし,教科担任制を加味し,持ち上がり主義を本則とし,経営は学級本位にして,之が責任は担任訓導にあり。訓導とは1学級教育担当の能力者なるをもって濫りに他の干渉を許さず」と述べている。40人というと現在では多い気がするが,当時はクラスが固定化されておらず,60人近く在籍することもざらであり,40人で一クラスを構成するというのは,当時としては極めて少人数教育体制であった。また義務教育といえど小学校段階で止めてしまう者も多く,学級の持ち上がり制は中退者を減らす防波堤ともなっている。手塚氏は,生徒同士,お互いがお互いを熟知しあう関係を築くことのできる学級こそが教育の原点であると述べているのだ。

 学級は単に生徒を40人ずつに区切るものだけでない。現行の学習指導要領のおいても,「学級や学校における生活上の諸問題の解決,学級内の組織づくりと自主的な活動,学校における多様な集団の生活の向上」など様々な活動を通して,「教師の適切な指導の下に,生徒の自発的,自主的な活動が助長されるようにすること」と意義付けられている。一つのクラスに波長の合う者もいれば,合わない者もいる,また,生徒だけでなく立場の異なる教師が多数関わる雑多な集団を押しつけられて,初めて社会性や集団活動における自分の位置を確認できるのである。

 近年,いじめや不登校,学級崩壊などに過敏になるあまりに,学級集団による活動を否定的に捉える風潮がある。また,個性を重んじるという題目を重んじるあまりに,生徒個人プログラムや能力別授業が行なわれている。しかし,多様な生徒が一所にいて,同じ作業を行なうということで,逆に自らのアイデンティティ探しにつながるのである。小集団活動の意義をもう一度再考する必要がある。 

〈社会福祉援助技術演習1〉

 カウンセリングは個人ないしはその家族を対象としており,クライエントが自己を客観的に分析し,自身の自己実現能力を引き出すことを目的として行われる。一方,社会福祉援助技術は個人や家族だけでなく,集団や地域社会を対象に,個人と家族や地域の関係性,また,地域と社会の関係性をつなぎ,向上させていくものである。

 カウンセリングは,クライエントが悩み過ぎて目の前の問題を正確に捉えることができない場合に行われる。そのため,クライエントと直に向き合って,クライエントにとってのスーパーバイザー的な役割を果たす。クライエントの発言を全て受容し,共感的態度を示し,内容を言い換えたり,明確化したり,繰り返したりして,問題を浮き彫りにてクライエントに返していく。

 しかし,社会福祉援助技術は「援助」と名前が付く通り,他者に対して能動的な働きかけを行なうものである。被援助者抱える問題を診断し,被援助者のニーズやウォンツを明らかにし,その実現に向けての処遇計画を作成し,その計画に沿って実際に個人ないし集団を動かしていくものである。そのため,被援助者と直に向き合うだけでなく,被援助者が問題をどのように認識し,どのような展望を持っているのか,また,個々の人間関係,社会関係に留意して援助に当たる必要がある。

 近年ノーマライゼーションの進展により,これまでの人里離れた入所型施設ではなく,可能な限り住んでいる地域で家族と共に在宅で過ごすための手間のかかる福祉サービス体制が求められている。しかし,その分だけ家族や近隣住民による日常的な手助けや気配り,また隣近所との調整などが必要になる。また在宅福祉サービスを提供する機関や団体が結びつけられ,相互の連絡・調整が図られねばならない。社会福祉援助技術はそのような人びとの間に立って,実際に計画し,行動していく中間管理職のような仕事なのである。

 そうした援助技術もまずは話を聞くところから始まる。元国立国語研究所長の水谷修は「聞き手としては,話し手が言っている内容に自分が同感したり,深く感動したりした場合には,それなりの表現で自分の気持ちを相手に伝えなければならない。話を聞きながら,的確に一つ一つ応じていくという態度が,コミュニケーションの効率を高めるし,また,必要であれば,説明や説得の方向に発展していくことにもなるのである」と述べる。

話し方研究所の内山氏は説得につながる傾聴のポイントとして,次の7点を挙げている。

  1. 話し手自らの気付きは,変革の出発点
  2. 話の途中でさえぎらない
  3. ひと区切りついた所で要点を明確にする
  4. 励ますあいずちを入れる
  5. 視点を変えた質問で気付きを促す
  6. 本音が出やすいように,安心感を与える共感のあいづちを
  7. 気付いたことを,ほめ言葉でたたえる

 参考文献
 一番ヶ瀬康子監修『教科書社会福祉』一橋出版,1997年
 NHK編・水谷修他著『じょうずな話し方:豊かな人間関係をつくる知恵』KKベストセラーズ,1980年

内山辰美『上手な聞き方が面白いほど身につく本』中経出版,2001年