〈社会保障論2〉

(a)労災保険法の給付は,労働者が業務中,もしくは通勤途中に生じた負傷・疾病・障害または死亡が,業務遂行中に,かつ,業務に起因して発生したものであると認められたときのみ与えられる。その「業務上」の概念は,法律では明記されておらず,行政解釈に依拠する点が大きい。
 ア)のように,勤務中に生じた災害については業務上と認められ,給付の対象である。また,イ)の場合においても,労働者が使用者の施設管理下にある限り,なお使用者の支配下にあるものとして業務遂行中と認められる。ただし,発生した災害は原則として業務外とされる。
 出張のように労働者が用務について包括的に使用者に対し責任を負っていると考えられる場合は,出張過程に全般において使用者の支配下にあるものとして業務上のものと判断される。ただし,ウ)のように,出張の通常範囲内の私的行為(休憩や飲食等)を逸脱する場合は業務外とされる。
 労災法7条2項で「通勤とは,労働者が,就業に関し,住居と就業の場所との間を,合理的な経路及び方法により往復すること」と定められており,エ)のケースは業務上とされる。しかし,7条3項では「労働者が,前項の往復経路を逸脱,中断した場合においては,通勤としない。ただし,日常生活上必要な行為である場合は,この限りでない」とあり,オ)のケースは業務外と判断される。

(b)業務災害に関する保険給付は以下の7種類である。通勤災害の場合も業務災害の場合に準じた保護が与えられるが,使用者の労災補償責任として行われるものでないため,「補償」という文字が削られている。
療養補償給付:働いている人が業務上の災害でけがや病気になったとき,退職後も含めて療養を要する全期間,指定病院で治療を受けられる。
休業補償給付:業務上のけがや病気で休んで賃金が受けられない時,休業1日につき給付基礎日額の60%の給付を受けられる。
傷病補償年金:業務上のけがや病気が1年半たっても治らず,かつその傷病により,重度の障害状態になったとき,その傷病の程度に応じて給付を受けられる。
障害補償給付:業務上のけがや病気が治ったものの,身体に重度ないし中程度の障害が残ったとき,その障害の程度によって年金か一時金を受けられる。
介護補償給付:業務上のけがや病気により重度の障害状態にあり介護を必要とするとき,支給される。民間の有料の介護サービスなどや親族,友人,知人により現に介護を受けていることも受給の要件となる。
遺族補償給付:業務上のけがや病気により死亡したとき,給付を受けられる。遺族の条件によって,年金か一時金に分かれる。
葬祭料:業務上の災害により死亡した労働者の葬祭に際して,葬祭料が支給される。

参考文献
安枝英訷・西村健一郎『労働法〔改訂版〕』有斐閣,1990年

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