高橋和巳『黄昏の橋』(筑摩書房 1971)を読む。
『現代の眼』に連載されていた作品で、未完に終わった作品である。安保やベトナム戦争など社会の矛盾に反対の意を表明する学生運動に、身体を投げ打ってでも参加したいが、既に体制側に回り資本の矛盾を担ってしまった主人公の忸怩たる思いが悔悟とともに語られる。大学を卒業し、俺は駄目だ、駄目だと世の中に甘えながらも、結局は自己否定の仮面をかぶるだけで、実のところ自惚れを傷つけずにすむ仕事に居座り続ける自らの立場を主人公は徹底的に自己批判する。
デモ隊に加わったもののすべてが何も英雄ではない。いやそもそもデモは英雄ではない常人の意思表示なのであり、国家の戦争加担を糾弾し、平和を欲すること自体が、そもそも、卑小でもあれば偉大でもあり、崇高でもあれば臆病でもある人間の極くあたり前の祈願なのだ。