月別アーカイブ: 2004年8月

『脳のメカニズム』

伊藤正男『脳のメカニズム:頭はどうはたらくか』(岩波ジュニア新書 1986)を読む。
小脳のプルキンエ細胞におけるメモリー機能の研究で有名な著者であるが、ブロードマンの脳地図や3系統のシナプスの解説など分かりやすく、タイトル通り脳のメカニズムを勉強していく上での簡単な見取り図として最適な入門書となっている。
小脳という部位は脳幹・脊髄の反射機能や大脳の運動機能を正確・精緻なものにする特殊な働きを司る。そうした運動機能を高めていくために、小脳では何度も繰り返すことで正しい動きを記憶し、誤った動きとの誤差を修正する作用(適応制御系)が常に働いている。その正しい動きの信号を記憶するのが、小脳内のプルキンエ細胞の「可塑性シナプス」というものなのだそうだ。今後小脳の研究が進んでいくと、一度で正確な動きを記憶できるような神経伝達物質のサプリメントなんていうのが開発されていくのだろうか。

『文章読本』

丸谷才一『文章読本』(中央公論社 1977)を読んだ。
文章の書き方に関する本をしばらく読んでいたが、最後のまとめてして日本語そのものに関する本を手にしてみた。彼自身の表記に関する主義で、300ページの文章の全てが旧字体漢字を含めた歴史的仮名遣いで書かれており読破するのに大変手間取った。現在我々が使っている日本語は平仮名や片仮名、漢字の入り交じった和漢混淆文であり、平家物語を代表とする軍記物語からその流れは始まっている。そして、現代の日本語は従来の主語なし、句読点なしの古文の流れに、明治以降の翻訳文が入り交じって形成された経緯があり、時制や主語の有無、句読点の配置など多くの正解のない語法的問題を抱えてしまっている。著者は、そうした問題はきわめて個人的な美意識に関わるものであり、その個人個人の美意識と明晰なロジックを身につけるためには、古文や漢文に慣れ親しむことと、外国語を一つでもマスターすることだと述べる。

また文章の構成については、以下のように述べる。すでに高校生や大学生向けの技術的な文章指導ではなく、専門に言葉を使うものへの美的な文章構成の教授となっている。

緒論・本論・結論といふ三分法にはとらはれないほうがいい。それは紐を一本、横にまつすぐ置いたやうな、曲のない文章を書かせる危険が大きいからである。われわれが書かなければならないのは、一本の紐が螺旋階段さながらに屈曲しながら宙へ昇る、古代の魔術のやうな文章なのだ。その手の文章を心がけるに当つては、緒論・本論・結論ではなく、起承転結といふ分け方を念頭に置くほうがよいかもしれない。もちろんこれは、漢詩における絶句および律詩の構成である。
(中略)
しかし、長短さまざまなの自由な散文を書くに当つて、是が非でも起承転結の型にはめなくちやならぬといふ法はない。いや、この四分法だけではなく、三分法や五分法やおよびそれに類した規制のどれかを取つて、文章構成の普遍的な規則を立てることではなく、優れた文章に出会つたとき、その一つ一つを具体的に検討して、どういふ具合に組み立てられてゐるかを調べることだけだ。が、その検討がまたなかなかむづかしい。
(中略)
構成といふのは究極のところ論理がしつかりしてゐるといふことなので、話の辻褄が合はず、話が前へ前へと進まなければ、緒論・本論・結論も、起承転結も、単なる形式、無意味な飾り、詰らぬ自己満足になつてしまふ。(中略)文章を一本の線としてとらへるのをやめ、一つの平面だと考へることである。一本の糸ないし紐ではない、一本の織物としての文章を書かうと心がけることである。そういう比喩を念頭に置くことは、結構を整へ脈絡をつけるのにずいぶん役立つやうな気がする。

『知的生活の方法』

渡部昇一『知的生活の方法』(講談社現代新書 1976)を読む。
本は「読む」だけものではなく、「使う」ものであり、生活費を削ってでも自分のものにしろというアドバイスは良かった。しかし、他はカントの生活を真似して英文法の神髄を極めたという自らの神童ぶりを自慢気に語り、古き大学の象牙の塔を思わせる閉鎖的な「知的」生活のススメという面白くない文章が並ぶ。

『何を書くか、どう書くか』『現代文の書き方』

少々古めの小論文の参考書をひも解いてみた。
板坂元『何を書くか、どう書くか:知的文章の技術』(光文社 1980)を読む。パソコンワープロ普及以前の作文技術となっており、カードを利用した発想法を含めて、トータルに文書を考えて文字に表現するまでを述べる。

扇谷正造『現代文の書き方』(講談社現代新書 1965)を読む。
元新聞記者である著者は、新聞のコラムの基本である600字作文を繰り返すことが文章上達の近道であると述べる。400字だと文章の主旨の骨しか組めないし、800字だと飾りとなる肉が多すぎて「情報化社会」(古い表現であるが…)においては冗長になりすぎる。ちょっと味の利いた要旨簡潔な文章は600字が一番良いと著者は述べる。

文章の書き方に関する本をここ数日何冊か読んでみたが、現在の小論文指導には二つの潮流があるようだ。一つはアメリカ型の文章指導や新聞の記事などに代表されるような「序論・本論・結論」型の3段落構成である。序論においてトピックを示し、そのトピックを一般化、深化させていく展開を取る。もう一つは漢詩の絶句に見られる「起承転結」型の4段落構成にまとめる文章である。最初にトピックを示すことはなく、読者に興味を持たせながら結論まで展開していく。前者が演繹的な展開になりやすいのに対し、後者は帰納的な流れに落ち着きやすい。こうした大きく二つの文章の捉え方が入り組んで現在の小論文指導があるようだ。どちらが良いともどちらが正しいとも言えないが、短期間における小論文指導では自分の書きやすい型をまず作らせるべきであろう。

『マッハ!!!!!!!!』

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ブラッチャヤー・ビンゲーオ監督映画『マッハ!!!!!!!!』(2003 タイ)を観に行った。
ちょうど初期の『蛇拳』や『木人拳』のジャッキーチェンのような手に汗握る肉体を酷使するアクション映画である。盗まれた仏像の頭部分を取り戻すという至って単純な話なのであるが、スタントマンやCGを使わず全て主役の俳優が演じているので、観ていて気持ちいい。最後のクレジットの流れるところでNG場面も出てきたのだが、苦労の一端がよく分かった。

□ 映画『マッハ!!!!!!!!』公式サイト □

夏休みということでめずらしくレンタルビデオ屋から映画を二本借りてきた。『ニューシネマパラダイス』と『チル』という作品である。『ニューシネマ〜』の方は定評のある作品であり、映画館好きな私としては共感出来る部分も多かった。『チル』というアメリカで2001年に公開された映画であるが、私が今までに観た映画の中でも最低の部類に入る作品であった。子どもだましな鹿のお化けが人間をとっちめるというホラーともサスペンスとも言いがたい内容不明な映画であった。