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『フード左翼とフード右翼』

速水健朗『フード左翼とフード右翼:食で分断される日本人』(朝日新書 2013)を読む。
前回の速水氏の『東京どこに住む?』を読んだばかりで、こちらも興味深い一冊となった。フード左翼とは「工業製品となった食を、農業の側に取り戻し、再び安全で安心なものに引き寄せようという人々だ。それは対抗文化の中で生まれ、商品となる過程を経たもの」と定義されている。引いては「政治運動でそれを実現することもあるが、主には消費という形で参加できる政治運動でもある」と述べられている。

速水氏は、村上春樹氏の長編小説『1Q 84』を紹介した上で、全共闘世代が農村に入って無農薬・有機野菜栽培、スローフード運動の流れで、フード左翼を論じている。つまり、学生という中間層が担った全共闘運動と有機野菜、ベジタリアンを支持する富裕層を、貧困層が参加できない都会的な左翼運動だと断じている。

無農薬・有機農法は、自然保護につながり、持続可能性に満ちた食の生産方法であると一般に捉えられている。しかし、それは極めて狭い見解であり、70億人以上の人口を支えていくことは不可能な生産方法である。今生きている人たちの食糧を無農薬で生産しようとすると、さらに大量の農地を開拓する必要があり、森林伐採や環境破壊が逆に進んでしまう。実際にアメリカでも日本でも有機農業が農業全体に占める割合は1%であり、化学肥料こそが持続可能な地球を支えているのである。

こうした現実を踏まえ、著者は理想に走りがちなフード左翼運動に対しては批判的な見解を示している。これからの高齢社会や地球的な人口爆発を見据えると、化学肥料や遺伝子組み換え食品、セントラルキッチンなど、フード右翼、フード左翼の両方の視点が必要だと述べる。

自分でも何を書いているのか、全くまとめきれていない。

『野生動物と共存できるか』

高槻成紀『野生動物と共存できるか:保全生態学入門』(岩波ジュニア新書 2006)を読む。
東京大学総合研究博物館で助教授を務める著者が、メダカに始まりツキノワグマやシカ、ラッコなどの保護について語る。著者は生態系全体を視野においており、人間が持ち込んだ外来種については厳しい姿勢を崩さない。

なぜ世界中の島々にヤギがいるのでしょう。それはじつは捕鯨のためなのです。ヤギは遠い昔に家畜となりました。粗食に耐え、乾燥にも強く、おとなしい性質なので、船に乗せて長い旅をすることもできます。このことを利用して、捕鯨業のために世界中の海洋島においていかれました。(中略)
私は小笠原の生態系保全の会議で意見を求められたとき、もちろんヤギを排除すべきだと主張しました。それが小笠原ん自然を保全するということであり、それが私たちの責任のとり方だからです。そこで私が強調したのは、ヤギを排除する以上、中途半端なことをしてはならないということです。駆除をする以上は根絶、つまりヤギの数をゼロにしなくてはなりません。というのは少しのヤギが残ると、食糧が豊富になり強い繁殖力ですぐに回復するからで、そうなるといつまでも駆除をつづけなければならないからです。

『東京どこに住む?』

速水健朗『東京どこに住む?:所得格差と人生格差』(朝日新書 2016)を読む。
東京23区といっても東部と西部で分断されており、中央線や東急線沿線の皇居の西側と下町地区の東側を比べると、現在でも「西高東低」の意識が強いことがうかがわれる。また、一口に東京23区というが、千代田区、渋谷区、港区など、皇居から5キロ圏内の都心部と、足立区や葛飾区、練馬区などの「都心郊外」では人口動態が大きく異なっている。

つい20年くらい前まではドーナツ化現象という言葉に表されるように、首都圏郊外がいわゆる東京を支えて来たが、この10数年、飲食店やICT産業を中心に職住近接の都市開発が進んでいる。

著者も紹介しているが、東京都心だけでなく、地方の中心都市など、30万人規模で半径5キロ圏内の都市生活が車を使わなくても、人々の関係が構築でき、環境にも良いという都市論となっている。大変な良書であった。

『やさしい雨』

牧村僚『やさしい雨』(徳間文庫 2007)を半分ほど読む。
「小説宝石」や「小説新潮」などの雑誌に掲載された短編官能小説である。
パターンがどれも似通っており、数編読んだだけで飽きてしまった。

『飛びだせ宇宙』

的川泰宣『飛びだせ宇宙』(岩波ジュニア新書 1992)をパラパラと読む。
著者はペンシルロケットを開発し「日本の宇宙開発・ロケット開発の父」と呼ばれた糸川英夫研究室の卒業生であり、長く東京大学宇宙航空研究所で人工衛星の開発に携わってきた研究者である。特に重力に逆らって飛び立つロケットの歴史や理論について分かりやすく述べられている。