投稿者「heavysnow」のアーカイブ

『ペットと動物の仕事』

高橋秀一編集『ペットと動物の仕事』(主婦の友社 2000)を読む。
「なるにはブックス」のような内容で、動物園や水族館の獣医師や飼育係、調教師、動物看護師、トリマー、ブリーダー、犬の訓練士など、動物に関わるあらゆる仕事が紹介されている。また、動物プロダクションや動物の服のデザイナーなど珍しい仕事も含まれている。

今回は意図的にそうした現場で働く女性のみが20人ほど取り上げられている。どの女性も仕事に対する熱意とやりがいを語っている。しかし、正社員といえど保険やボーナスもなく、大変低い給料で働いている。刊行当時にはなかった「やりがい搾取」という言葉が思い浮かんでしまう。教育や保育、動物、アニメ、ゲームなど、その対象が愛おしいほど仕事にやりがいを感じるのは否定できない。しかし、その結果として生活できない、結婚できない、家庭を維持できなくなっては困る。仕事が面白いほど、足元を見つめ直すことが必要である。

『自転車で旅をしよう』

自転車生活ブックス編集部『自転車で旅をしよう:初めてでも楽しめる週末ツーリングのすべて』(ロコモーションパブリッシング 2005)を読む。
週末のサイクリングに必要な準備や計画に始まり、自転車の選び方やバッグ、アクセサリーの説明、乗り方や宿泊、先達の自転車旅の醍醐味など、自転車旅の全てが詰まっているムック本である。

2005年に刊行された本なので、スマホがない頃なので、「ツーリングの超基本アイテム」の地図の折りたたみ方や地形図の購入方法、1/25,000と1/50,000、1/200,000の地形図の特徴など、今となっては隔世の感すら感じる部分が印象的であった。また、当時から26インチMTBに700cのロードタイヤをつけた舗装路ツーリングスタイルを奨励するショップの記事も興味深かった。

「エルドアン氏 優勢か」

本日の東京新聞朝刊にトルコ大統領選挙の決選投票の情勢が報じられていた。
エルドアン氏も移民に不寛容な政策をとっているのに、野党候補は更なる移民排除を訴えているという。エルドアン氏の前任のアブドゥラー・ギュル前大統領(在任 2007年8月28日 – 2014年8月28日)はバランスの取れた大統領で、まさにイスタンブールの置かれている位置に象徴されるように、欧州と中東の接点、イスラム教勢力とキリスト教勢力の緩衝材としての役割を果たしてきた。(クルド人に対する姿勢は評価しないが)

授業の中でも紹介したが、エルドアン前大統領はシリアやアフガニスタンの難民がトルコ国内に留まらないように、ギリシア国境付近へ強制的に追い出し、EUに難民を押し付けてきた。イスラム教の盟主であるトルコを頼ってきた難民にとっては手酷い仕打ちである。そのエルドアン政権よりもさらなる排外主義が打ち出されようとしている。

ウイシュマさんを見殺しにしたとも言われている名古屋入管を抱える日本も遠い国の話ではない。つい先日も日本維新の会の梅村みずほ議員が、国会の場において日本の滞在資格が甘いと口汚く批判したばかりである。週2回の地理総合の授業であるが、難民を取り巻く国内外の現状を伝えていきたい。

『絵の前に立って』

中山公男『絵の前に立って:美術館めぐり』(岩波ジュニア新書 1980)をパラパラと読む。
著者は東京大学文学部美学美術史学科を卒業した研究者で、美術館館長や筑波大学、明治学院大学の教授を歴任している。中高生向けに日本の美術館に所蔵している近代ヨーロッパの作品を、時代背景や作者の経歴を交えて紹介している。ミレーやマネ、モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴッホ、ゴーギャン、マティス、ピカソなど錚々たる名前が並ぶ。

作品の紹介以上に、これらの名画が大原美術館(岡山県倉敷市)やブリジストン美術館(現アーティゾン美術館)、出光美術館、ひろしま美術館など、民間の美術館に多数陳列されているという事実の方が驚きであった。バブル期に日本人による海外の美術作品漁りがニュースとなったが、果たしてどれくらいの日本人がこの名画を鑑賞できる眼を持っているのであろうか。

『東海道 水の旅』

中西準子『東海道 水の旅』(岩波ジュニア新書 1991)を読む。
著者は東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修し、汚水処理や下水道計画を専門とする研究者である。政府に対して意厳しい意見を投げつけていたためか、公害問題研究家の宇井純さんと同じく、東京大学都市工学科内で万年助手の立場であった。
印象に残った一節を紹介したい。

もちろん、いまの下水道がひじょうにいいというのではありません。だから、私はいまでも、あちこちの下水道計画に苦言を呈しています。しかし、やはり「これはだめだ:と主張し、それが多くの人の同感をえられれば、すこしは変わるということです。私は、この「すこし変わる」ということを、高く評価したいのです。「すこし変わるのを認めるのは、相手側に丸めこまれることだ」といい、むしろきれいに玉砕するのを高く評価するという傾向が日本の住民運動には強いのですが、私は、そういう潔癖主義で生身の社会に対処することは無益で危険だと考えています。

もちろん、いまの日本に理不尽なことが多く、いくら正論をはいても通らないことは多いのを知っています。しかし、その場合でも、よく見ると、すこしは意見が通っていることがあるのです。そのとき、だめだといわずに、少しは通ったと考えて、おたがいに励ましあい、自分の意見を主張することに希望を見いだしたほうがいいと私は思うのです。そうでなければ、世の中をよくできないと思うのです。大人の人はともかく、若い方にはぜひともこういう気の持ちようをすすめたいと思います。

本書は、東京から大阪までの新幹線の車窓から見える川の風景に、山から海までの水の流れや浄水技術、公害、安全な飲み水という点から解説を加える旅日記という形で話が進行する。ヤマハの創設者が浜松の地で天竜川で運ばれてくる木材を利用してオルガンを作り始めた逸話や、農薬に含まれている窒素やリンが海に流れ込むと、水の中にあるカリウムと絡み合って大量の藻類が発生するという話などが興味深かった。また、流れの急な大井川は上流に数多くの発電ダムが作られたため、現在では水の量が急減した話なども面白かった。