『最強伝説黒沢』

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福本伸行『最強伝説黒沢』(2003~ 小学館ビッグコミックス)を1巻から6巻まで一気に読んだ。
高校を出て26年間ひたすら建設現場で働いて、彼女も親友もいない独身男黒沢が、自らの存在感を求めるあまりにはちゃめちゃな事件に巻き込まれていく。主人公黒沢は、骨身を削って愚直に日々働いているにも関わらず、部下から慕われず、下手な画策をして墓穴を掘っては職場で浮いた存在になっていく。現代日本は会社仲間やファミリー、若者を中心に動いていくものである。部下からの厚い信頼もない貧乏な中年男黒沢は、職場でも私生活でも疎外感から逃れることができない。思えらくは現代版プロレタリア文学のような設定で話は展開していく。

居酒屋で夜一人、なんこつ揚げとライスセットを頼んでいる姿は、私の独身時代の姿と重なって、哀れみと共感を禁じえなかった。頑張れ、黒沢っ!!

『ぼっけえ、きょうてえ』

 岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』(1999 角川書店)を読む。
 第6回日本ホラー大賞に輝いた作品で、短編ながら読みごたえがあった。科学ホラー全盛の今日にあって、村八分による異分子排除や水子の怨念といった日本の怪談の原点をモチーフに、ストレートに恐怖を描いている。評者の荒俣宏氏の解説がズバリ的を射ている。短い文章ながら、うまくまとめられた解説である。是非真似したいものだ。

大賞に輝いた「ぼっけえ、きょうてえ」は、わずか六十枚の片々たる作品だったが、すごくて、しかもおもしろかった。「すごい」ほうは、岡山弁で語られる明治後期の地方事情。よくぞここまでリアルに、と感心した。一方、「おもしろい」ほうは、何といっても語りのテクニックである。決して目新しい題材ではない。しかし、遊廓での遊女と客の寝物語という奇妙なコミュニケーション環境の中で、物語は貧しい社会ゆえの悲劇を語る。評者はかつて、弾圧や拷問を描くプロレタリア文学はホラー小説として再読されるべきだ、と主張したことがあるが、まさにそのような面白さであった。汚れてグロテスクな話がむしろ「厳粛な聖性」に感じられてくるあたりのスリルは、永井荷風の掌編すら思い出させた。

耐震強度偽装事件

 今日のテレビのニュース番組は、耐震強度偽装事件におけるヒューザーや木村建設、総合経営研究所、姉歯建築事務所への一斉家宅捜査のニュース一色であった。110ヶ所に捜査員が約520人も動員されたそうで、その数はオウム真理教以来の動員ということだ。

 ここ1ヶ月ばかり新聞やテレビでさんざん疑惑追求の報道がなされたので、捜査員が大挙して会社に押し入る場面に、水戸黄門や遠山の金さんよろしく溜飲を下げた視聴者も多いことだろう。偽装マンションの住人からも「誰が一番悪いのか明らかにしてほしい」「誰が責任をとるべきなのか真相を解明してほしい」との発言が相次いだ。国会での茶番劇やマスコミの扇情的な報道で大衆を不安に陥れた上で、権力が一刀両断に制裁を加えるという構図は、石原都知事の誕生やオウム真理教における破防法適用審議を彷彿させる。マンション購入者はそのマンション選択のミスを問われることのない徹底した「弱者」であり、そうした弱者を苛める悪代官は白日の元にさらし出して公権力の裁きで圧殺すべしと、大衆が期待するそうしたカラクリにこそ、大きな危険が潜んでいる。

『玩具修理者』

 小林泰三『玩具修理者』(角川書店 1996)を読む。
 第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞した表題作とタイムトラベルを主題としたSF中編小説「酔歩する男」の2編からなる。登場人物の独白で物語が展開していく。テンポもよく一気に読んでしまった。
 「玩具〜」の方は、おもちゃを修理するように一度全てのパーツに分解されて組み立てられたヒトは果たして生物と言えるのかどうか疑問を提示する。また、「酔歩〜」では、登場人物がタイムトラベルに翻弄されながら、時間というものは過去から現在、未来へと因果律を踏まえて一直線に流れていくものなのかどうかという古典的な不安が描かれる。典型的なSFのプロットを踏まえている「酔歩〜」の方が面白かった。

『介護福祉士になるには』

大橋謙策・渡辺裕美編著『介護福祉士になるには』(ぺりかん社 2000)を読む。
高校生向けの「なるにはシリーズ」の一冊で、介護福祉士の仕事の概要に始まり、待遇や将来性、国家試験や専門学校の紹介まで網羅されている。また、今や日本社会事業大学の学長となった「熱血」大橋教授による「地域福祉論」の入門書ともなっている。大橋氏は地域福祉を「地域での自立生活保障が可能になるシステム」として展開されるものであり、それは「ノーマライゼーション思想を具現化する新しいシステム」だと定義する。さらに、その実現に向けて「行政に対する要求や告発だけでなく、行政に言うべきことはきちんと言う」ことが大切であり、「地域住民の社会福祉に関する生涯学習が求められる時代である」とまとめる。