『ぼっけえ、きょうてえ』

 岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』(1999 角川書店)を読む。
 第6回日本ホラー大賞に輝いた作品で、短編ながら読みごたえがあった。科学ホラー全盛の今日にあって、村八分による異分子排除や水子の怨念といった日本の怪談の原点をモチーフに、ストレートに恐怖を描いている。評者の荒俣宏氏の解説がズバリ的を射ている。短い文章ながら、うまくまとめられた解説である。是非真似したいものだ。

大賞に輝いた「ぼっけえ、きょうてえ」は、わずか六十枚の片々たる作品だったが、すごくて、しかもおもしろかった。「すごい」ほうは、岡山弁で語られる明治後期の地方事情。よくぞここまでリアルに、と感心した。一方、「おもしろい」ほうは、何といっても語りのテクニックである。決して目新しい題材ではない。しかし、遊廓での遊女と客の寝物語という奇妙なコミュニケーション環境の中で、物語は貧しい社会ゆえの悲劇を語る。評者はかつて、弾圧や拷問を描くプロレタリア文学はホラー小説として再読されるべきだ、と主張したことがあるが、まさにそのような面白さであった。汚れてグロテスクな話がむしろ「厳粛な聖性」に感じられてくるあたりのスリルは、永井荷風の掌編すら思い出させた。

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