『トパーズ』

村上龍『トパーズ』(角川書店)を読む。
不認可の風俗産業に従事する女性を主人公にした短編集である。迂遠な文体を用いており、また内容的にも意味の取りづらいところが多く、感想は述べにくい。作者自身一つ一つの作品のディテールよりも雰囲気を重視している。あとがきに次の文章を寄せている。

風俗産業に生きる女の子達は、ある何かを象徴している。
それは女性全体の問題でもあるし、また都市全体のことでもある。
彼女たちは必死になって何を捜しているが、時折それは、男や洋服や宝石やフレンチレストランという具体的な形になって現れ、またいつの間にか消える。
彼女達が捜しているものは、実はそういう具体ではなく、これから先、人類が存続していく上で欠かせない「思想」なのだと思う。
私は、彼女達が捜しているものが、既に失われて二度と戻ってこないものではなく、これからの人類に不可欠でいずれそれは希望に変化するものなのだと、信じている。

ここで作者が提出している「思想」なるものがいかなるものであるのか、即答することは難しい。しかし何となくは分かる気がする。それは「居場所」であろう。自己肯定をすることが難しい都市化の中で、いかに自他共に何らかの形で認められる自己像が形成出来るのか、というテーマではなかろうか。確かに女性はセックスやその他によって身体を嫌が上でも再確認できる。また男性もSMやアナルセックスによって身体レベルでの自己を確認することができる。実はそうした極めて形而下的な段階で発生する自己認識が問われてくる時代がやってくるのではないか、というのが私の感想なのだが、いかがであろうか。

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