『負け犬の遠吠え』

酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社 2003)を読む。
男は仕事、女は結婚・育児という保守的な人生観がここ10年くらい息を吹き返しつつある。「30代、独身、子どもなし」という「負け犬」人生を歩むことになった30代後半の女性の悲哀を諧謔交えて描く。
話を読み進めながら、「負け犬」の30代後半女性は、就職氷河期で正採用のチャンスを逃し、派遣やアルバイト生活を続ける20代後半から30代にかけての「ニート」に大変近いと思った。どちらも80年代後半のトレンディドラマに出てくるような派手な恋愛やサラリーマン、OLの仕事姿に憧れ、理想と現実のギャップを受け入れることができないでいる。どちらも人事担当や上司からの仕事や人柄の評価、また独身男性からの容姿やかわいさの評価を得ることができない。そして、そうした一面的な評価を人格そのものの否定と受け取ってしまい自身を失いかけている。
しかし、そうした一部の評価を過大に受け取ってしまう「負け犬」の捉え方の背景に、日本の社会のせちがらさ、また多様な視点で受け入れてもらう経験の場が少ない日本の教育の貧困さが伺える。著者自身が教育やマスコミが作り上げた一面的な格差のカラクリに気付き、開き直って執筆していることに、読者は救われる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください