『戒厳令の夜』

五木寛之『戒厳令の夜』(新潮社)を十年振りに読み返した。
前半部は大和朝廷からの支配を逃れた「山家」の伝承をフィクション化したものであるが、後半部はガラッと趣を変え、チリのアジェンデ政権の崩壊を内部から描いたものである。高校生の時に読んだときはあまり感動はなかったように記憶しているが、今読み返してみて、特に後半部の1936年のスペイン戦争と1973年のアジェンデ政権崩壊を一つの流れとして捉える視点は面白かった。物語中で、36年のスペインにて人民戦線側として活躍したパブロ・カザルスやピカソらが今度はチリに合法的に選挙で選出された人民連合の応援に回るのだ。しかしその人民連合は資本主義の強大国アメリカの策動につき悩まされ、一方で武装化を計る社会党左派、左翼青年組織を持て余しているという微妙な位置にいる。そしてカザルスやネルーダも人民の側に付きたいという良心をうまく政治的に利用されてしまう。この作品はそうした脆弱なアジェンデの政治的基盤をうまく浮き彫りにしている作品であった。

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