第41回吉川英治文学賞受賞作、宮部みゆき『名もなき毒』(文春文庫 2011)を読む。
中日新聞をはじめとするブロック紙に2005年3月から12月にかけて連載された小説である。推理小説の体を取りながら、現代社会に上手く馴染めず、他人や社会との溝を心の毒で埋めようとする人間像を描く。クリスマスなど他人の幸せが嫌でも目につく時期ともなると、自分の境遇との格差に苛立ちが募り、他人を攻撃したり、自傷行為に走ったり、あるいは逃避したりする人間の弱さを見事に炙り出している。面白いと思える作品ではなかったが、文学的なテーマを含む作品であった。