福田一郎『ドバイにはなぜお金持ちが集まるのか』(青春出版社 2008)を読む。
アラブ首長国連邦を構成する首長国のひとつドバイの経済から生活、風習、歴史、現状を幅広く紹介する入門書となっている。
アラブ首長国連邦というと、お金持ちの産油国というイメージしかなかったが、7つの首長国が集まった連邦国家であり、そのうち石油を産出するのは最大の国であるアブダビだけである。ドバイ首長国は官民あげて石油に依存しない産業の創出に勤しんだ結果、中東最大の金融・流通・観光の拠点となるまでに至っている。また、住民の8割以上が外国人であり、その半数をインド人が占めている。アラブとインドは別世界と考えていたが、アラビア海を挟んだ隣国同士であり、2000年以上前から人的交流が続いていたのである。
国全体がディズニーランドや高級ショッピングモールのようなイメージもあるが、ヨーロッパとインドのちょうど中間地点にあるという地の利を生かした金融や投資にも注目していきたい。
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『裏アジア紀行』
クーロン黒沢『裏アジア紀行』(幻冬社アウトロー文庫 2005)を読む。
カンボジア・プノンペンに住む著者が、「北斗の拳」の漫画に出てきそうなカンボジアでの荒れ果てた生活や、中国、ミャンマー、チベットなどを訪れた際の酒や猥褻、詐欺にまつわる裏話を語る。
「本当かいな?」と疑問符が頭を過るのだが、読みやすい文体で一気に読み終えた。チベットに関する文章が面白かった。言葉遣いは汚いが、それほど中国のチベット支配の悪汚さを表しているのだろう。
チベットを実効支配するのは、かの中国である。占領から50年以上が経過した今もチベット独立運動は鎮まらず、業を煮やした共産党はチベット全土に数十万の軍隊を置き、ついに首都ラサまで鉄道を引いた。
中国系メディアによれば、「鉄道建設には環境的にも最大の注意を払い、野生動物を驚かさないよう静かに工事を進め、チベットカモシカの繁殖期には4日間、工事を中断してカモシカに道を譲り、工事現場の周りに草花を植えました」だのなんだの、美談のオンパレード。母親がボケ始めたので高級老人ホームに叩き込んでやりました。月15万円も払う俺は最高の孝行息子……みたいな論理である。工事中はともかく、列車にも道を譲らせるつもりなのだろうか?
某中国系新聞が誇らしげに掲載した、鉄道開通後の想像図がこれまた凄かった。ポタラ宮の周りに悪趣味な中国風高層ビルが林立するラサの未来。いかれてる……。
ある日の猫
『戦後日本の保守政治』
内田健三『戦後日本の保守政治』(岩波新書 1969)をぱらぱらと読み返してみた。
55年体制構築前後の自民党政治が丁寧にまとめられている。大学時代に読み通した本であり、先ほど読んだ全学連と真逆の側の話なのだが、時代が同じだったので手にとってみた。学生が真摯に直向に佐世保や羽田、王子などにおいて、国民の支持を受けながら闘争をつづけてきた中で、自民党は国民の批判の矛先が集中しないようにうまく(いやらしく)立ち回ってきた。
保守勢力は、かなり巧妙にこれらの危機を切り抜け、国民大衆の批判と不満をそらし、それをバックとする革新勢力の攻勢をしりぞけてきたといえよう。保守支配の貫徹のためには、時の政権担当者の首をすげかえ、弾圧から宥和へ、暴走から迂回への転換もあえて辞さなかった。その典型的なケースとしては、吉田から鳩山へ、岸から池田への政権移動をあげることができる。保守政治は、革新勢力の突き上げに硬軟両様の構えで対応し、同時に保守勢力内のむきだしの反動をセーブするという両面作戦―つまり“綱渡り”の統治技術―を駆使してきたのである。
また、内田氏は次のようにも述べている。
戦後保守のなかにたえず保守傍流、正統に対する異端ともいうべき系列があったことに注目する必要がある。それが保守合同以前の段階で、自由党内における鳩山―河野の党人派的系列、および自由党に対立する民主党系列に見いだされることもすでにこれまで折りにふれて言及してきた。
この保守傍流、異端の系列は、吉田自由党的本流に対抗する場合、大まかにいって、外交面では対米依存批判―自主独立外交、内政面では進歩主義的諸政策、体質的には党人派的感覚などをその特色としていた。とはいっても、この保守少数派はそれ自体錯雑した漠然たる集団であり、鋭い内部矛盾をもはらんでいた。
55年体制時には、自民党内部に「本流―傍流」のまっとうな対立軸があったが、「自由民主」党から「民主」党部分が抜けて、「自由」党部分の「本流気取り」だけしかいなくなってしまったのだろうか。また、旧民主党の現民進党前原代表のグループが保守傍流に位置づけられるのだろうが、本流と傍流の間に必要な転換がない。内田氏は保守傍流について「それ自体錯雑した漠然たる集団であり、鋭い内部矛盾をもはらんで」いると述べるが、この指摘は現在においても有効である。
『ゼンガクレン』
猪野健治『ゼンガクレン:革命に賭ける青春』(双葉社 1968)をパラパラと読む。
古本屋の800円の値札が付いているが、どこで手にいれた本なのかは覚えていない。
1950年代前半の山村工作隊の失敗、六全協以後のブントの分裂、日米安保闘争、革共同の分裂、三派全学連の盛り上がりまでが、歴史の教科書のように分かりやすくまとめられている。サングラスを外した黒田寛一氏の写真も掲載されておりビックリした。wikipediaによるとクロカン氏は2006年6月、埼玉県春日部市の病院にて肝不全のため死去されているとのこと。
最後は高校生の学生運動に火がつき始めたというところで締めくくられている。タイトルにもある通り、全学連のプロパガンダ的な性格を帯びており、1968年という時代を感じる作品であった。