日別アーカイブ: 2017年7月25日

『断腸亭日乗(下)』

永井荷風『断腸亭日乗(下)』(岩波文庫 1987)をぱらぱらと読む。
1937(昭和12)年から1959(昭和34)年までの日記が収録されている。
荷風は数えで81歳まで生きているのだが、亡くなる前日まで日記を認めている。晩年はほぼ一行日記になっているが、80を超えてもほぼ毎日のように千葉県市川市から浅草まで通う俗世魂は流石である。

1948年7月5日の内容が興味を引いた。このように荷風は書いている。

日本人の口にする愛国は田舎者のお国自慢に異らず。その短所欠点はゆめゆめ口外凄まじき異なり。歯の浮くやうな世辞を言ふべし。腹にもない世辞を言へば見す見す嘘八百と知れても軽薄なりと謗るものはなし。この国に生れしからは嘘でかためて決して真情を吐露すべからず。富士の山は世界に二ツとない霊山。二百十日は神風の吹く日。桜の花は散るから奇妙ぢゃ。楠と西郷はゑらいゑらいとさへ言つて置けば問題はなし。押しも押されもせぬ愛国者なり。