中部博『自動車伝来物語』(集英社 1992)を読む。
『週間プレイボーイ』に連載されたもので、明治期に日本に初めて入ってきた自動車の正体を探るというルポルタージュである。
本論とはあまり関係ないのだが、著者がサンフランシスコに渡り、図書館に保管されていた1890年代末の日本語新聞を調査する中で、当時の日本人の置かれた状況が興味深かった。
カリフォルニア州において共和党がとった選挙戦略のひとつはアジア人排斥、おもに日本人排斥運動出会った。中国人移民労働者のアメリカ入国は法律で厳しく制限されていたから、アジア人排斥運動の矢はいきおい日本人に向けられた。
この戦略はきわめて単純な政治状況を作ることで、浮動票を共和党が獲得しようというものだった。つまり増加しつつあるアジア人移民労働者にアメリカ人労働者の仕事が奪われている、このままではアメリカ市民の失業率が高くなる、したがって増加し続けている日本人を排斥する法律をつくる必要がある、という運動方針だ。人種問題とアメリカ人労働者の生活を巧みに組み合わせた政治テーマである。どんな時代でも、いかなる国でも、愚かな政治家は、有権者の人気を得ようとして人種差別をするものだ。