森英恵『ファッション』(岩波新書 1993)を読む。
ファッションという苦手な分野だが、著者の戦争体験のくだりが興味深かった。
頭の上で焼夷弾が破裂する防空壕のなかで、また黒い布をかぶせた灯の下で、アメリカの小説を読みふけっていたのは、背徳だったに違いない。でも、当時の私たちにとってそれは自然なことであったと思う。どんな状況のなかでも人間には何か夢が欲しいものなのである。
戦時を生きた体験はたくさんのことを教えてくれた。自分の意志に関わりなく死と対決していなければならなかった。生きているぎりぎりのところで、人間性を見つめていた。食べたいもの、着たいもの、読みたいものを与えられなかった暮らしから、物の大切さしみじみと味わった日々をでもあった。知りたい、学びたい、読みたい、美しいものを見たいと切望した。そんな経験は、若い欲望やわがままを風化させて、生きていることの本質をしっかり見せてくれたように思う。
戦争の絶望の最中であろうと、「知りたい、学びたい、読みたい、美しいものを見たい」という自分の夢や欲求を持つことが大事なのである。そうした好奇心を芽生えさせることが、教育や育児の根幹なのである。戦争を防ぐ手立ては数多くあるが、作者は戦争を生き抜く術は知的好奇心であると述べている。